2011 Fiscal Year Annual Research Report
低エネルギー高濃度水素打込みによるタングステン格子欠陥形成メカニズムの解明
Project/Area Number |
22560821
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Research Institution | National Institute for Fusion Science |
Principal Investigator |
加藤 太治 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (60370136)
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Keywords | タングステン / 格子欠陥 / 水素効果 / 第一原理計算 |
Research Abstract |
本課題では、低エネルギーの水素イオンが高粒子束で照射された場合に、タングステン中にどのようにミクロ構造(格子欠陥)が形成され、それによりどの程度水素吸蔵量が影響を受けるのか明らかにすることを研究の目的としている。当該年度に偉、タングステン中の原子空孔集合体の成長において、マトリクス中の水素濃度が大きな影響を及ぼすことを、第一原理計算と統計力学的考察によって明らかにすることができた。これは、上記の目的を達成する上で重要となる基礎的な知見である。 具体的には、二原子空孔の結合エネルギーの第一原理計算を実施したところ、従来の実験的また理論的な知見と反し、タングステン中の二原子空孔が非常に不安定な存在で、単原子空孔に容易にかい離しやすいことを示唆する結果が得られた。ところが、このような二原子空孔に水素原子が結合すると、安定化が起こることを明らかにした。この、水素原子と結合した二原子空孔の形成エネルギーは、これまでの電界イオン顕微鏡観測によって二原子空孔と推定されていたものの形成エネルギーとよく一致することから、実験で観測されたものは、試料中に存在した水素原子と結合し安定化した二原子空孔であった可能性があることを示した。この結果を用いて、統計力学的な考察を行い、タングステン中の二つの単原子空孔とひとつめ水素原子が結合してクラスタを形成する場合の自由エネルギーの変化を計算し、クラスタの形成が進行するのに必要なマトリクス申の水素と原子空孔濃度の領域、及びその領域が温度によってどのように変化するのか明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、タングステン中の原子空孔及びその集合体と水素原子との相互作用、不純物原子の拡散に対する水素効果など、新しい知見が得られている。このように、当初の研究目的の達成に向けて、タングステン中のミクロ構造(格子欠陥)形成の理解に必要な要素過程の研究が順調に進んでおり、研究期間内に目的達成の見込みがある。
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Strategy for Future Research Activity |
高粒子束の低エネルギー水素イオン打込みによる熱空孔の発生と水素原子との結合、水素原子の影響を受けた熱空孔の拡散と会合過程を考慮したタングステン中の原子空孔濃度の速度論的物理モデルを構築する。この物理モデルに基づいて、これまでに得られてきた要素過程の知見を活用して、タングステン中のボイド生成が可能な水素濃度やタングステン試料の温度などのパラメータ領域を明らかにする。以上のような研究を効率的に推進するために、他の研究グループによって公表された最新の知見なども取り入れる。ボイドが観測されている実験例との整合性を調べ、提案した物理モデルの妥当性の評価を行う。
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