2011 Fiscal Year Annual Research Report
サイクロトロンを用いた照射誘起応力腐食割れの実験的研究
Project/Area Number |
22560830
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
村瀬 義治 独立行政法人物質・材料研究機構, 材料信頼性評価ユニット, 主任研究員 (10354193)
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Keywords | 照射誘起応力腐食割れ / 軽水炉構造材料 / サイクロトロン / その場試験 / 水素脆化 / プロトン照射 / 疲労 |
Research Abstract |
本研究は軽水炉構造材料における照射誘起応力腐食割れ(以下、IASCC)の理解向上に資することを目的としている。そのため、変動応力下で原子はじき出し損傷および水素を同時に材料中に導入可能な複合的照射環境が整備されたNIMSサイクロトロン「その場」照射試験施設において、ヘリウム予注入した316ステンレス鋼について材料疲労試験を実施し、微細組織変化、ならびに微細組織変化が疲労クラック発生及び伝播に与える影響の調査を行うものである。以下に、3年計画の2年目である平成23年度の研究成果について述べる。 (1)疲労試験試料の作製:SUS316の板材から90μm厚の薄板試験片を作製した。 (2)ヘリウム予注入(at300℃):疲労試験試料に100appmのヘリウム予注入を行った。 (3)複合的照射下試験(at300℃) ヘリウム予注入および未注入の疲労試験試料について、エネルギー減衰器を用いて照射条件(1.0×10-7dpa/s,7.1×10-4appmD/s)において17MeV照射下疲労試験を実施した。その結果、ヘリウム未注入材では疲労破断寿命が、非照射<照射下であったのに対し、ヘリウム予注入材では、非照射>照射下となった。 (4)SEM破面解析 疲労破断試料についてSEM破面観察を行った結果、すべての試料で延性疲労破壊の破面形態がみられた。次に疲労ストライエイション解析を実施したところ、ヘリウム予注入材では非照射に比べて照射下でクラック発生および伝播過程が促進されることがわかった。 上記(3),(4)の結果から、ヘリウム予注入材では疲労挙動における照射下効果が確認できなかった。その原因として材料中のヘリウムが水素をトラップし、水素が照射下効果を抑制したと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
照射下において疲労寿命が伸長する、いわゆる「照射下効果」について、エネルギー減衰器を用いた照射下疲労試験を行うことにより、照射下効果における水素の影響を調査するための実験的研究が順調に行われている。これまでに、60℃と300℃では、材料中の水素拡散係数の違いから、照射下における材料中の定常水素濃度が大きい60℃でのみ水素影響がみられるが、材料中にヘリウムが予注入されている場合には、300℃においても水素影響が発現することを明らかにした。これらの成果は照射誘起応力腐食割れ挙動における水素の影響を理解する上で貴重な知見である。
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Strategy for Future Research Activity |
エネルギー減衰器を用いた照射下疲労試験では、はじき出し損傷レートと水素導入レートの比が一定であるため、ビーム強度を増加させると、照射下効果だけでなく水素の影響も大きくなると考えられる。したがって、照射下効果における水素影響の理解向上のため、ヘリウム未注入、予注入材のそれぞれについて、照射下疲労挙動におけるビーム強度依存性を明らかにする必要がある。また、レーザー顕微鏡による疲労破面の3次元データに基づくフラスタ解析によって、クラック発生点やクラック伝播速度の推定を行う。さらに、SEM-EDX解析により、破面の化学組成分析も合わせて実施し、破面形態と化学組成変化の相関関係を検討する疲労破断面について検討を行うことにより、照射誘起応力腐食割れにおける水素影響メカニズムの解明に貢献する知見を得る。
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