Research Abstract |
本研究の目的は,矮雄をもつミョウガガイ類を対象に,矮雄の適応的意義を解明することである。このために,平成22年度は,ミョウガガイにおいて,1)矮雄間の授精をめぐる精子競争の実態を解明し,2)矮雄と雌の成長といった基本的な生活史パラメータを比較した。 1.矮雄間の精子競争の実態解明:申請者らが開発したマイクロサテライトマーカー4つを用いて,各胚がどの雄に授精されたかを決めた。また,同じ標本において,雌の体サイズ(頭状部長)や矮雄の定着位置(もっとも産卵口に近く授精に有利であると考えられる雌の開口部下端からの距離),および矮雄の体サイズ(厚さ0.1mmの血球計算盤で押しつぶして面積を測定)を記録した。それらのデータから,個々の矮雄の授精成功を調べ,その体サイズや着生位置との関係などを解析した。 その結果,矮雄の着生位置は,授精成功に関係していないことが明らかになった。一方,体サイズの小さな矮雄ほど,授精成功度が高いという結果が得られた。これは,1)小さな矮雄が授精において有利である,または2)多くの卵を授精した矮雄が精子を使ったために縮んだ,という2つの可能性を示唆する。以下の結果をみると,後者の可能性のほうがよりあり得そうだと考えられた。 2.矮雄と雌の生活史パラメータ:2010年5月に潜水艇で採集したミョウガガイ雌4個体を15℃,1気圧に保った100リットルの水槽で11ヶ月飼育した。うち3個体の雌が11ヶ月生存したものの,成長は確認されなかった。今回の飼育条件が成長に不適であった可能性は否定できないが,雌の成長率の低さが示唆された。一方,別の水槽において,飼育下で定期的に一定数の雌を固定し,雌上の雄の体サイズの変化を調べた。その結果,飼育期間が長くなるにつれ,雄の体サイズが減少する傾向がみられた。
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