2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22570073
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
松下 敦子 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 助教 (50450416)
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Keywords | 弱電気魚 / 神経伝達物質 / 時間感覚 / 免疫組織化学 / 比較神経解剖学 / 国際研究者交流 米国バージニア |
Research Abstract |
本研究では、弱電気魚の微小時間情報処理機構を解明することを目的として、(1)抑制性・興奮性シナプスマーカーの探索と局在解析、(2)伝達物質の薬理学的解析(当初予定)、(3)ジムノティ目の時間情報処理経路の形態学的解析(変更)を行なっている。平成23年度は、以下の結果を得た。 (1)ジムナルカス後脳内細胞層における時間情報処理回路の免疫組織化学的解析 抑制性マーカーの局在を光顕レベルで詳細に観察した。GABAとGADの分布は卵形細胞や錐体細胞表面(基部樹状突起、細胞体、尖頭樹状突起)のボタン等においてほぼ一致していた。卵形細胞の樹状突起は錐体細胞の基部樹状突起に接続していることから、卵形細胞から錐体細胞への抑制性入力が予想される。一方、錐体細胞の尖頭樹状突起へのGABA性入力は卵形細胞以外の細胞によるものと考えられる。卵形細胞は巨大細胞からグリシン性入力を受けていることから、グリシン受容体があると考えられる。そこでグリシン受容体とGABAA受容体に結合するジェフィリンの分布を詳細に観察したが、卵形細胞上の分布はみられず、専ら錐体細胞に局在していた。 (3)ブラチハイポポマス時間情報処理回路の同定 これまでの行動学・生理学的解析から、ジムナルカスとは別グループのブラチハイポポマスにも高感度の時間感覚があることがわかった。そこで、初期中枢である中脳の神経解剖学的基盤を明らかにし、ジムナルカスと比較することにした。電気信号刺激に対する応答性を見ながら中脳各部位への色素注入を行った結果、大細胞核(MMN)に、電気信号刺激中の時間情報に応答する2種類の細胞、後脳から投射している洋梨形細胞とMMN内在性の大細胞、を見いだした。これらは共にMMN 内の「小細胞」に投射していた。同定した3種類の細胞とそれらが構成する神経回路は概してジムナルカスの時間情報処理回路と同じであることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)については、当初、抑制性・興奮性両方の受容体について行う予定であったが、抑制性を優先している。というのも、最近哺乳類の聴覚系における両耳時間差検出機構において、抑制性伝達物質の重要性がさらに明らかになったからである。すなわち、聴覚系の上オリーブ核の細胞は、興奮性と抑制性の2つのシナプス前細胞からの入力を受けてその差分から自らの応答性を変化させているが、この細胞はGABAを放出して2つの入力の大きさをフィードバック制御していることがわかった。そして実際シナプス前細胞にGABAB受容体が見つかった。ジムナルカスの内細胞層にもグリシン性の巨大細胞、GABA性の卵形細胞がある。このことは弱電気魚と哺乳類とで時間差検出において共通原理が明らかになる可能性があり、重点的に調べる必要がある。一方、(3)においては、予備的に得られた行動学・生理学実験結果をもとに、魚の中脳に、時間差比較のための神経回路があることを光学顕微鏡レベルで見いだした。この種間比較的アプローチも弱電気魚における時間情報処理機構の解明に非常に有用であり、また注目する脳部位は、時間情報処理の進化的側面からも注目すべき点があり、(2)の薬理実験よりも優先することにした。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)については、染色結果に確証の得られた抑制性マーカーについて引き続き詳細に観察を続け、電子顕微鏡レベルで局在を明らかにすることを第一の目標とする。(3)については、電子顕微鏡レベルで神経回路のシナプス様式を明らかにするとともに、時間情報処理において最も注目されるべき小細胞の投射先を調べる。
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Research Products
(1 results)