2012 Fiscal Year Annual Research Report
緑藻アオサ・アオノリ類の種分類と種分化に寄与した環境適応分子進化に関する解析
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22570086
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
嶌田 智 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 准教授 (40322854)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 海藻類 / 分類 / 進化 / RNA-seq / 集団遺伝構造解析 / マイクロサテライト |
Research Abstract |
平成23年度に引き続き、タイプ標本を含めた系統解析や培養実験による形態比較などの解析を通して、緑藻アオサ・アオノリ類に関する種分類に関する解析を進めた。特にボタンアオサUlva conglobataのタイプ標本をスウェーデンのウプサラ大学より借用することができたので、詳細な解析を進めることができた。分子系統解析および培養実験での形態の可塑性を解析した結果,ボタンアオサ状のアオサ属藻類は5種確認でき,アナアオサ,リボンアオサ,ミナミアオサが潮間帯上部でボタン状になるもの,ヒメボタンアオサおよび未記載種の存在が明らかとなった。未記載種に関してはボタンアオサUlva conglobataのタイプ標本との比較により別の独立種であることが判明し,現在新種記載の論文を執筆中である。 また、河川産スジアオノリと海産ウスバアオノリのマイクロサテライトマーカーを用いた集団遺伝構造解析を進めたところ、北海道の個体群においてのみ,両種の遺伝子流動を示唆する結果となった。北海道忍路のウスバアオノリ♂から北海道信砂川のスジアオノリ♀への流動であった。この2種に関しては税関におけるDNA分析によるアオノリ製品の原料種推定での簡易スクリーニング法の開発もおこなった。その際に,5S rDNAのスペーサー領域で,スジアオノリとウスバアオノリを区別していたのだが,正確な採集地は不明だが,いくつかのサンプルで交雑を思わせる結果となり,北海道だけでなく,日本各地で両種の交雑がおこっていることが示唆された。 さらに,スジアオノリとウスバアオノリに関してNA-seqを利用したトランスクリプトーム解析を行った。低塩濃度適応に関連すると思われる56遺伝子を推定できた。これらの遺伝子は,海産ウスバアオノリにも存在しているが発現が無かったり極端に少なかったりしたことから,発現調節により低塩濃度に適応していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標は「RNA-seqを用いた発現解析」であり,両種を海水条件で培養した株(コントロール)、また海水から低塩分条件へ移した株(1週間後)を材料とし,汽水産種スジアオノリと海産種ウスバアオノリとの間で、発現している遺伝子の種類及び発現量を比較し、スジアオノリでのみ低塩濃度条件で発現上昇(減少)している遺伝子群、ウスバアオノリでのみ発現上昇(減少)している遺伝子群、両種で上昇(減少)している遺伝子群を同定することであった。これに関しては順調に解析できた。また,低塩濃度条件下に移した際に、継時的に複数の時点からサンプリングすることで、低塩濃度条件に対する遺伝子発現のカスケードを予測することも目標にしていたが,これに関しては行うことができなかった。それ以外に,種分類や集団遺伝構造解析などで実験が順調に進み,総合して,②おおむね順調に進展している と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に引き続き、タイプ標本を含めた系統解析や培養実験による形態比較などの解析を通して、緑藻アオサ・アオノリ類に関する種分類に関する解析を進める。ボタンアオサUlva conglobataに関しては詳細な解析を進め国際誌に投稿する。また、これまでに蓄積したデータをすべて網羅した「緑藻アオサ・アオノリ類に関する種分類に関する理解の現状」をとりまとめ、国際誌に掲載する。 また、河川産スジアオノリと海産ウスバアオノリのマイクロサテライトマーカーを用いた集団遺伝構造解析をとりまとめ、国際誌に投稿する。 次に、河川産スジアオノリと海産ウスバアオノリの人工交配実験を進め、F1胞子体から放出される遊走子の発芽率やF1配偶体の形態的多様性や低塩濃度耐性に関する解析をおこない、それぞれの系統保存株を確立する。緑藻の配偶子では、種や性の認識に鞭毛先端に存在するアグルチニンが関与されていると考えられている。そこで本研究では、上述の河川産スジアオノリと海産ウスバアオノリにみられる雑種形成の中間段階の複数株で、このアグルチニンがどのように変化しているのか電子顕微鏡解析を進める。 さらに、以前取得したRNA-seqデータを詳細に解析し、低塩濃度耐性に関する分子進化について、関連候補遺伝子や発現調節部位などを調査し、国際誌に投稿する。
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Research Products
(10 results)