2011 Fiscal Year Annual Research Report
ハナガサノキ(アカネ科)における性表現の多様性とその進化
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22570096
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
菅原 敬 首都大学東京, 大学院・理工学研究科, 准教授 (10226425)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
清水 晃 首都大学東京, 大学院・理工学研究科, 助教 (10315749)
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Keywords | 性表現 / ハナガサノキ / 送粉様式 / 雄性両全性異株 / 雌雄異株 / ムニンハナガサノキ / 繁殖様式 / アカネ科 |
Research Abstract |
本研究はハナガサノキ(Morinda umbellata L.)の種内分類群間においてみられる性表現の違い,すなわち雌雄異株(Dioecy)と雄性両全性異株(Androdioecy)という異なる性型について,その進化の方向性や進化の要因を系統学的視点ならびに送粉生物学的視点から解明することを目的としたものである.雄性両全性異株という特異な性型への進化を解明することは進化生物学的にも重要な課題である.本年度は特に系統学視点からの調査に重点をおいたが,送粉生物学的調査も並行して行った. 系統解析においては,台湾,中国東南部,東南アジアを含む東アジア地域に産するハナガサノキ近縁種を用いて,葉緑体trnL-F領域,核ITS,ETS領域の塩基配列情報に基づいた分子系統解析を進めた.その結果,雄性両全性異株性を示すムニンハナガサノキ(M. umbellata subsp. boninensis)と雌雄異株である狭義のハナガサノキ(M. umbelllata subsp. umbellata)は,分類学的にはM. umbellataの種内分類群として扱われるにもかかわらず,それぞれは別のクレードに位置するため,系統的には離れていることが判明した.ムニンハナガサノキは,台湾や中国南東部に分布するM. parvifoliaと一つのクレードを形成した.この結果は二つの植物が近縁であることを示唆するが,葉形態を考慮すると全く予想外の結果である.得られた系統樹を考慮すると,ムニンハナガサノキは独立した種として扱うことが妥当と考えられた.また系統樹に個々の種の性表現を重ね合わせていくと,ムニンハナガサノキと姉妹群をなすM. parvifoliaは雌雄異株,またその外に位置する狭義のハナガサノキも雌雄異株である.この事実を考慮すると,ムニンハナガサノキにおいて見られる雄性両全性異株は雌雄異株から由来した可能性がある.これは理論的研究から示唆された方向性とも一致する傾向である.これらの成果は現在論文にまとめている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の一つは、雄性両全性異株という特異な性型への進化がどのような方向で進んできたかを系統と結びつけて推測することであったが、サンプルの不足は多少あるものの、性型進化の方向性についての成果は達成されつつあるので、その意味では順調に進んでいると言えるであろう。一方、送粉様式については、小笠原諸島送粉昆虫相の破壊が進んでいることもあり、厳しい一面もある。
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Strategy for Future Research Activity |
系統推定については、日本産ハナガサノキの2亜種と関連する植物のサンプルをさらに充実させて、より信頼性の高い系統の構築に努めていきたい。とりわけ、中国中南部に分布するM. parvifoliaについては解析個体を増やしていきたい。 一方、送粉様式については、小笠原諸島の昆虫相がすでに破壊されてしまっていることもあり、移入種が送粉を担っている状況である。そのため、本来の送粉システムの解明が難しく、他種との比較も厳しい面がある。
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