2011 Fiscal Year Annual Research Report
交信かく乱法が効かない害虫種に対する原因究明と分子同定法の導入
Project/Area Number |
22580059
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
野村 昌史 千葉大学, 大学院・園芸学研究科, 准教授 (50228368)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中牟田 潔 千葉大学, 大学院・園芸学研究科, 教授 (70343788)
|
Keywords | 交信かく乱 / キンウワバ類 / タマナギンウワバ / 分子同定法 / 性フェロモン / 害虫管理 |
Research Abstract |
本研究で行った長野県における野外調査の結果、複合交信かく乱剤を施用してもタマナギンウワバの発生が完全に抑えられないのは、このかく乱剤に含まれているキンウワバ用の成分に、成虫が反応していないことが考えられた。そこでガスクロマトグラム-触角電位検出器(GC-EAD)を用いて、オス成虫の触角にかく乱剤の成分をあてたところ、オスは性フェロモンの主要成分に強く反応した。よって成虫が反応していないという仮説は否定された。一方、成分ではないが、かく乱剤中に多く含まれている他種の成分についてもオスの触角に反応がみられたため、これらの成分をタマナギンウワバの成分に加えて野外試験を行ったところ、誘引が阻害された。よって市販の交信かく乱剤は、タマナギンウワバの成分よりも高い濃度で含まれている別の成分の影響で、交信かく乱が起きづらいのではないかと考えられた。このことは室内実験によっても確かめられた。またタマナギンウワバの成分比に近いルアーを用いて交信かく乱を行ったところ、市販の成分比に対して十分にかく乱されていることが明らかになった。 また研究目的の一つである「成虫の活動性」を明らかにすべく、タマナギンウワバ成虫の飛翔行動について室内実験を行った。実験は成虫の飛翔活性を明らかにするアクトグラフと、強制飛翔による飛翔距離を明らかにするフライトミルを用いて、未交尾メスと交尾メスの比較を行った。その結果、羽化後4~6日後の交尾メスは未交尾メスよりも飛翔活性が有意に高いことがわかった。また飛翔距離においては未交尾メスと交尾メスは有意な差がなく、どちらも同じくらい飛翔能力があることが明らかとなった。交尾したメスでも飛翔活性が高く、未交尾メスと変わらない距離を飛翔できる能力を持つことは、本種が交尾後もほ場内を活発に移動できる可能性を示唆しており、交信かく乱が起きづらい要因となっていることが考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究目的に示した項目のうち、野外調査はタマナギンウワバに関する調査が23年度でほぼ終了した。レタスほ場については概要が分かったので、異なる地域で調査を行うことにしている。またタマナギンウワバについては室内実験における行動解析も順調にデータを得ており、24年度で成虫の飛翔行動については一定の成果を上げる見通しがついた。以上により当初の研究予定よりも研究が進んでいると判断されるからである。
|
Strategy for Future Research Activity |
23年度までの研究の進展が予定よりも進んでいるので、新たな地域と新たな対象種に研究を広げていくこととする。これまでの本研究により、交信かく乱剤の効果が低いのは、長野県ではタマナギンウワバであることが明らかとなったが、タマナギンウワバは東日本に多い害虫で、西日本には少ない。また最近被害が多くなってきているイラクサギンウワバは、長野県の高冷地での発生が少ない。 そこで、最終年に当たる24年度では、昨年度も予備調査を行った兵庫県を中心に野外調査を行う予定である。大規模な調査は行えないかもしれないが、これによって2種のキンウワバにおける発生動態をある程度は明らかにすることができる。またイラクサギンウワバの性フェロモンについては、日本国内個体群の構成成分をきちんと示していないので、これらを明らかにすることにする。
|