2011 Fiscal Year Annual Research Report
マイクロチューブを形成する新規な含硫複合糖質の構造決定と超分子化機作の解明
Project/Area Number |
22580117
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
武田 穣 横浜国立大学, 工学研究院, 准教授 (40247507)
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Keywords | Leptothrix cholodnii / 鞘新生 / チオペプチドグリカン / 蛍光標識化 / マンガン酸化 / マイクロカルチャー |
Research Abstract |
チオペプチドグリカンを超分子化することによってマイクロチューブ(鞘)を形成する細菌(Leptothrix cholodnii)における鞘新生箇所と細胞分裂箇所の関連性を顕微鏡観察によって明らかにした。細胞分裂箇所の特定は、スライドガラス上に作成したマイクロカルチャー中の菌体を位相差顕微鏡で継時的に観察することによって行った。観察の結果、細胞は鞘内での位置に関わらずほぼ同じ速度で伸長し、分裂することが明らかとなった。一方、鞘新生箇所の特定はチオール基の反応性を活用した蛍光顕微鏡観察によって行った。まず、菌体にチオール基ビオチン化試薬を作用させることによって鞘をビオチン化した。続いて蛍光標識化抗ビオチン抗体を作用させて菌体中の鞘表面を蛍光標識化した。蛍光標識化した菌体を培養した後、蛍光顕微鏡観察すると鞘の中央部のみが蛍光を発したのに対して両末端部は蛍光を発しなかった。すなわち、鞘は両末端部で伸長することが示唆された。これをさらに積極的に立証するため、新生部を選択的に蛍光標識化することを以下の方法で試みた。菌体に対してチオール基アシル化試薬を作用させて、既存のチオール基を不活性化した。処理後の菌体を培養した後に、菌体に対してチオール基ビオチン化試薬と蛍光標識化抗ビオチン抗体を順次作用させて蛍光顕微鏡観察に供した。予想していたように、鞘は両末端部のみで蛍光を発し、中央部は蛍光を発しなかった。これによって鞘は両末端部で伸長するとともに、これに内包される細胞列の伸長・分裂は鞘内の随所で起こることが確かめられた。チオペプチドグリカン分子の分泌が細胞伸長・分裂と連動してもたらされていると仮定すれば、同分子は分泌された後に鞘内を移動して末端部に至り既存部に会合するという機構が示唆される。L.cholodniiはマンガン酸化細菌であり、マンガン酸化物を鞘表面に沈着する。マンガン沈着と鞘形成の関係を明らかにするため、マンガン存在下でのマイクロカルチャーにおける菌体の継時的顕微鏡観察を行った。その結果、マンガン沈着は培養後期に鞘の中央部で始まることが判明した。すなわち、マンガン沈着と鞘伸長は時間的にも空間的にも競合せず、生物鉱物化現象における鞘の合理性を推察する手がかりが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
達成目標である「鞘形成複合糖質の構造決定」、「鞘伸長部位の特定」、「細胞伸長・分裂位置の特定」、「鞘形成複合糖質の分子シミュレーション」のうち、「鞘形成複合糖質の構造決定」は完遂した。また、「鞘形成複合糖質の分子シミュレーション」以外はすでに一定の成果が得られている。分子シミュレーションについても、構造決定が完遂したことからすでに着手している。鞘伸長とマンガン酸化との関連性を明らかにした点は計画以上といえるが、全体としてはほぼ当初計画に則した進展といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
達成目標のうち、「鞘伸長部位の特定」と「細胞伸長・分裂位置の特定」についてはLeptothrix cholodniiでは完遂しているが、Sphaerotilus natansでは途上である。この原因はLeptothrix cholodniiでは有効だった蛍光標識化の方法のうちS-アシル化がSphaerotilus natansに対しては致死的だったためである。S-アシル化の代替として試した2重染色法が適当であることをすでに確かめているので、これをさらに改良して目標を達成する予定である。 「鞘形成複合糖質の分子シミュレーション」については、2糖単位に分けて分子力学計算を進めつつある。これらの計算結果に基づいて量子化学計算を行い、各単位の最安定構造を算出する。最終的には各安定構造を組み合わせ、分子力学計算を行って分子の安定配座を求めて分子会合の可能性を探る予定である。
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