2011 Fiscal Year Annual Research Report
牛乳中の高機能タンパク質の組換えウイルス用いた新規のマダニ防圧法開発
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22580335
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
田仲 哲也 鹿児島大学, 農学部, 准教授 (00322842)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤崎 幸蔵 鹿児島大学, 農学部, 教授 (00292095)
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Keywords | ラクトフェリン / トランスフェリン / フェリチン / マダニ / ラクトペルオキシダーゼ / バキュロウイルス |
Research Abstract |
マダニはヒト以外の動物では第1位に、またヒトでは蚊に次いで第2位に重要な疾病媒介節足動物であり、マダニとマダニ媒介性疾病によって世界の畜産が蒙っている経済的被害額は毎年70億米ドルの巨額にのぼる。加えて、地球温暖化や国際交易増大によるマダニ媒介他の新興・再興感染症の出現は、先進国と途上国に共通する新たな大問題となっている。DDTが発明された1950年代以降、マダニとその媒介疾病の防圧はもっぱら各種の化学物質を殺ダニ剤として用いることによって行われてきた。しかし、近年、化学的殺ダニ剤に対する抵抗性マダニの出現、残留殺ダニ剤による環境・食物連鎖の汚染などの問題が深刻化している。このため、現行のマダニ対策は抜本的な見直しを迫られており、化学的殺ダニ剤に代わりうる安全性・有効性・経済性に優れた新たなマダニ防除技術の開発が、今や世界的に急務となっている。このような社会的ならびに学術的背景に、本研究は病原体の感染に対する防御機能を持つミルクタンパク質(high-potential milk protein : HMP)に着目し、HMPの有する鉄キレート作用やヘム結合能がマダニの生存の基本であるヘムとヘムから生じる鉄の代謝に、直接的に重大な影響を及ぼすとともに、HMPはマダニの中腸で分解されることにより、その産生物によって間接的に、しかも大きな影響をマダニの発育・増殖に及ぼす可能性があると考えるに至った。すなわち、ウイルスベクターを用いて、経皮的にマダニ体内にHMPを投与することによって(バキュロウイルスベクター)、マダニの吸血・産卵を阻害できる可能性が高い。したがって、本研究は、(イ)ウイルスベクターの構築、(ロ)in vivoでのHMP発現、(ハ)HMPの効果、(ニ)HMPの鉄とヘムの関与について展開される。平成23年度においては、マダニ吸血後のマダニ体内に含まれるHMPの一つであるラクトフェリンの検出を行ったが、ラクトフェリンの存在が確認されなかった。そこで、ラクトフェリンと同じファミリーであるトランスフェリンの検出を試みたところ、マダニ体内でトランスフェリンが分解されない状態で長期間に渡って保持されている可能性が示唆された。また、トランスフェリンは中腸からヘモリンフへ移行し、卵巣に到達することも確認された。今後はマダニ体内でのトランスフェリンに結合している鉄の存在意義やフェリチンとの関連性について研究を推進していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HMPとヘモグロビン由来の鉄や血中に含まれる鉄との関連性について証明が困難であったが、HMPと同様な鉄結合能や抗酸化機能を持つトランスフェリンとフェリチンに着目したところ、マダニ生存において、これらの分子が鉄運搬や抗酸化機能に重要な役割を果たしている実験結果が得られた。このため、当初の研究目的であるマダニ体内における血液消化によって生じるヘモグロビン由来の鉄がどのような運命をたどるのか今後の研究展開が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で殺ダニ効果を期待するHMPは、in vitro、in viroレベルで、抗原虫・抗ウイルスがあることも報告されていることから、節足動物であるマダニに対しても有効性が十分に期待出来る。可能性は極めて低いが、万が一、HMPに十分な殺ダニ効果が期待出来なかった場合には、バイオ殺ダニ剤・ダニワクチンの開発は不可能となる。しかし、この場合においても、HMPと同様な生理活性があるトランスフェリンやフェリチンを用いて、ヘム合成能を欠くマダニがヘム;ヘムから生じる鉄をどのように利・活用しているのか、有用な情報を様々な角度から提供しうる先駆的・独創的なものであることには変わりはない。従って、得られた研究成果の学術的価値は、重大であり、研究成果を学術誌等で国内外に発信することは、いささかの障害もないといえる。
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Research Products
(8 results)