2011 Fiscal Year Annual Research Report
水環境-微生物反応系を用いたアジア大河デルタ農村の地下水ヒ素汚染機構の解析
Project/Area Number |
22580378
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
黒澤 靖 九州大学, 熱帯農学研究センター, 教授 (70128114)
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Keywords | 還元的状態 / アンモニウム態窒素 / ピート / 脱窒菌 / アンモニア酸化菌 / ヒ素溶出 / 水-土-作物系 / 蓄積経路 |
Research Abstract |
地下水ヒ素汚染の発生についてアジアデルタに共通した水質条件が存在するかどうかを調べるために、地下水のヒ素濃度・アンモニウム究素濃度・酸化還元電位を、ガンジス、紅河、メコン各デルタで測定し、それらの関係を考察した。その結果、地下水のヒ素濃度が高いとき、地下水の酸化還元電位は、デルタの違いにかかわらず共通に、還元的状態の値(20mV~110mV)を示した。これより、地下水の還元的状態は、高い地下水ヒ素濃度が発生するための必要条件であるとみなされた。各デルタでは、地下水のアンモニウム態窒素濃度が高いとき、そのヒ素濃度も高い場合があった。この場合アンモニウム態窒素を利用するバクテリアの活動によって地下水の酸素が消費され、地下水が還元的状態になったと考えられた。 次に、ガンジスデルタで、ヒ素濃度の高い泥炭質堆積物(ピート)を対象にして、これに存在する可能性のある窒素固定菌の分離同定を行った。この結果、アンモニアと亜硝酸塩を酸化する菌は分離同定できなかったものの、脱窒菌2種類(緑膿菌及びシュードモナス・デニトリフィカンス)と、アンモニア酸化菌2種類(ニトロソモナス・エウロパエア及びニトロソビブリオ・テヌイス)が分離同定された。これらの窒素固定菌の存在は、ピートからのヒ素溶出に何らかの関連を持つと考えられた。 さらに、水-土-作物系におけるヒ素の動きを明らかにするため、ガンジスデルタで、地下水(灌漑用水)、土壌、作物の各ヒ素濃度を水田と畑地で測定した。水田では、地下水のヒ素濃度が土壌と作物の各ヒ素濃度と、また畑地では、地下水のヒ素濃度と土壌のヒ素濃度とが、それぞれ正の相関関係を示した。畑地においても上壌中のヒ素は作物に吸収され蓄積されると考えられた。これらのことより、水-土-作物系はヒ素が作物に蓄積される主要経路であると判断された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アジアデルタのうちこれまでに、ガンジス、紅河、メコンの各デルタで調査を実施することができた。現地における地下水の水質調査、日本に持ち帰った堆積物のヒ素分析は順調に終えた。堆積物に存在する微生物の分離同定作業に少し時間がかかっているが、今のところ大きな遅れはない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の現地調査は、ヒ素汚染が深刻であるバングラデシュ、ネパールを中心に行う。この地域の地下水ヒ素濃度は、これまでフィールドキットあるいは原子吸光光度計で測られおり、その値が正確でない可能性があるので、これをICP-MSを用いて精度よく測定する。堆積物のボーリングも、サイトを厳選して行うこととし、これまでの調査例においてはヒ素含有最の多かった堆積物中のピート層またはピート質粘土層について、ヒ素分析、微生物の分離同定を行う。これらのデータを十分検討したのち、堆積物・地下水を水環境-微生物反応系の実験装置にセットしてヒ素溶出実験を行い、堆積物から地下水へのヒ素溶出機構、これに影響する要因を考察する。
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Research Products
(5 results)