2011 Fiscal Year Annual Research Report
キネシン機能阻害による異常な細胞周期進行の分子細胞生物学研究
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22590067
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
澤田 潤一 静岡県立大学, 薬学研究科, 准教授 (70381738)
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Keywords | 薬理学 / 癌 / 生体分子 / 細胞周期 / キネシン |
Research Abstract |
近年、抗癌剤の創製を指向し、キネシンモータータンパク質KSPを標的とした細胞分裂阻害化合物の開発が世界的に進んでいる。本研究は、これら化合物によるKSP阻害から波及する細胞内生体分子群の異常挙動を明らかにし、KSP阻害化合物の作用メカニズムにおける分子情報を提供することで、癌治療薬の研究開発における生物学的基盤を確立することを目的としている。これまでの私の研究から、KSPの新たな重要な機能として、紡錘体形成時における染色体キネトコアからの微小管伸長に関与することが示唆されてきていた。 本年度は、キネトコアからの微小管伸長におけるKSP阻害化合物の影響を明らかにすることを試みた。その結果、通常のM期進行では、キネトコアから微小管が伸長する際にKSPはキネトコア周辺に集まり、キネトコア微小管形成に関与するTPX2/Aurora A複合体やCD168と細胞内局在を同一にしていることが観察できた。これに対し、KSP阻害化合物存在下では、このKSPのキネトコア局在が妨げられるものの、TPX2/Aurora A複合体のキネトコア局在は妨げられないことが明らかとなった。 KSP阻害化合物によってKSPのキネトコア局在を制御することで、キネトコアから伸長する微小管の状態を検討したところ、低温耐性が異なることが明らかとなった。また、KSPとTPX2/Aurora A複合体との相互作用を組換えタンパク質を用いて検討した予備実験では、KSPとAurora Aとの物理的相互作用の可能性が示唆された。 以上、本年度の研究で、KSP阻害化合物は、これまでによく知られている中心体の挙動のみならず、染色体キネトコアの機能にも影響を及ぼすことが分子レベルで明らかとなりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
培養細胞を用いた実験(タンパク質の局在観察と微小管の機能球験)は、計画どおりの課題を実施することができている。組換えタンパク質を用いた細胞内での現象の基盤となる試験管内再構成実験(生化学的解析)は、計画よりもやや遅れている。理由は、KSP組換えタンパク質の発現が量的に困難であったこと、本課題研究のエフォートを20%としていたが、他の研究課題との兼ね合いで20%を下回ったことが挙げられる。全体としては、新たな興味深い知見も得られているので、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題が仮説として立てた「KSP阻害化合物が、タンパク質問相互作用に影響を及ぼし、その結果、これまで知られている中心体の挙動以外の場面においても紡錘体形成に影響を与える」ことについて、染色体キネトコアから伸長する微小管形成に着目することで、研究の進展が見込めることが確かなものとなってきた。今後、染色体キネトコアから伸長する微小管形成という生命現象に対して、KSPやTPX-2/Aurora Aタンパク質複合体の重要性とKSP阻害化合物の及ぼす影響を詳細に明らかにするとともに、これら以外にも関与するタンパク質について文献を調査し、KSP阻害化合物がそれらに及ぼす影響を検討する必要がある。また、AuroraA阻害化合物はMillennium社から報告されているので、KSP阻害化合物との化合物相互作用についても検討が必要となる。
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Research Products
(6 results)