2011 Fiscal Year Annual Research Report
新規S1P供与体を用いた初期動脈硬化病変の先駆的治療法の開発
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22590139
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
藤井 聡 名古屋市立大学, 大学院・薬学研究科, 教授 (90291228)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
尾関 哲也 名古屋市立大学, 大学院・薬学研究科, 教授 (60277259)
土肥 靖明 名古屋市立大学, 大学院・医学研究科, 准教授 (40305529)
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Keywords | 生理活性 / 脂質 / 薬学 / 臨床 / 内皮前駆細胞 / 動脈硬化症 / ナノ粒子 / HDL |
Research Abstract |
生理活性脂質スフィンゴシン1-リン酸(sphingosine-1-phosphate, S1P)は、血管壁構成細胞のシグナル伝達物質として機能し、S1P受容体を介して血管の成熟過程や血管壁の緊張、さらには血栓の形成を制御する。前年度までの研究で、我々は血漿S1Pが血中高密度リポタンパク質(high-density lipoprotein, HDL)や血管内皮機能と相関することを明らかにしてきた。本年度は、心血管疾患リスクの高い肥満患者の血漿S1P濃度を測定した。合併症のない高血圧症や脂質異常症の患者で高速液体クロマトグラフィーにより血漿中S1P濃度を測定し病態との関連を解析した。BMIが25以上のグループは25未満のグループに比べ血漿S1P濃度が高く、体脂肪蓄積とS1Pの関連が示唆された。肥大した脂肪組織は低酸素に陥ることが知られているため、3T3-L1前駆脂肪細胞を脂肪細胞へ分化させ、低酸素環境(1% 0_2)で培養した。低酸素環境暴露により細胞外S1P濃度は有意に増加した。細胞内S1P濃度に有意な変化は見られなかった。細胞内では低酸素状態によりS1P生成が増加し細胞外へ放出される可能性が示唆された。ABCトランスポーター阻害剤処理により細胞外へのS1Pの輸送は有意に抑制され、S1PはABCトランスポーターを介して細胞外へ放出されることが示唆された。現在、S1P産生酵素および分解酵素の働きを調節することによりS1Pの輸送機構の詳細について解析を進めている。HDLコレステロールの作用増強に伴う動脈硬化症の治療を目標としたナノキャリアの開発では、S1PおよびアポリポタンパクA1(ApoA1)を金ナノ粒子に搭載した人工HDLナノ粒子の調製を行った。塩化金酸水溶液にアルカンチオールを添加し水素化ホウ素ナトリウムで還元しアルカンチオールで表面保護した金ナノ粒子を調製した。その後、S1Pを粒子表面に添加・挿入した。次にApoA1水溶液を加え粒子表面に結合させた。S1P含量はリン定量により、ApoA1含量はタンパク定量により求めた。動的光散乱法により測定した平均粒子径を約20nmに制御した金ナノ粒子1個に、50分子のS1Pと20分子のApoA1が結合していた。この人工HDL粒子の分散状態は1ヶ月以上の長期間安定であった。ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)をリポ多糖で刺激し炎症を誘導させ、そこに調製した人工HDLナノ粒子を加えた。その後、血栓性や動脈硬化症促進のマーカーであるプラスミノーゲン活性化抑制因子(PAI-1)のmRNA量をリアルタイムRT-PCRにより定量した。人工HDLナノ粒子は添加後数時間以内にリポ多糖で増加したPAI-1のmRNA量を低下させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
臨床研究において血漿S1P濃度は血管内皮機能の指標となり、肥満者で血漿S1P濃度が高いことからS1Pが心血管疾患と密接に関連していることが示唆された。S1P産生酵素や分解酵素の働きを調節することによりS1Pの輸送機構の詳細について解析を進めてきた。また、2年目の予定に沿ってこれらのデータをもとに、新規S1P供与体となる人工HDLナノ粒子を調製しえた。基本物性の評価後、生理的作用についてさらに検討を加えている。
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Strategy for Future Research Activity |
人工HDLナノ粒子は血管内皮細胞に対してPAI-1発現を抑制することで抗血栓作用を示し、将来、初期動脈硬化症の進展を抑制する治療に有用な製剤として期待できる。S1PはHDLの血管保護的な役割の一つであると考えられた。本研究により新たなS1P供与体を開発することが強く期待できる。効率よくS1Pを初期動脈硬化病変部位に到達させることは、内皮に保護的な作用を有する内皮前駆細胞のS1Pに対する応答やS1P受容体発現などを制御することを含めて、動脈硬化症の先駆的治療法として用いられる可能性が示唆された。動脈硬化症は心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な疾患のベースとなるため、まったく新しい発想にたった新規薬物治療システムの一層の開発が望まれる。生理作用及び安全性の評価をすすめ、新しい薬物としての開発を進展させたい。
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Research Products
(10 results)