2011 Fiscal Year Annual Research Report
アロマテラピーによるがん化学療法における副作用の軽減効果
Project/Area Number |
22590146
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
太田 伸 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (30233125)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大和 進 新潟薬科大学, 薬学部, 教授 (60057370)
立川 英一 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (50146031)
下枝 貞彦 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (40515087)
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Keywords | アロマテラピー / 補完代替医療 / ストレスマーカー / クロモグラニンA / アミラーゼ / コルチゾール / 内田クレペリンテスト / がん化学療法 |
Research Abstract |
健常人ボランティア18名と抗がん剤投与患者l3名を対象に試験を行い、以下の結果を得た。 (1)健常人ボランティアにおけるストレスマーカーの推移 健常人ボランティアに対し内田クレペリンテストにより30分間のストレス負荷を実施し、ストレス負荷前後で唾液中のストレスマーカーを測定した。クロモグラニンAとアミラーゼはストレス負荷後に短時間で上昇したが、コルチゾールは短時間での上昇が認められなかった。アロマテラピーの有無によりストレスマーカーがどのように変化したのかを推定周辺平均値で比較したところ、健常人ボランティアのクロモグラニンAはアロマテラピーを行わない場合と比較して、アロマテラピーを行った場合のほうが有意に低下することが明らかとなった(分散分析P=0.0013)。一方、健常人ボランティアのアミラーゼとコルチゾールの推定周辺平均値は、アロマテラピーの有無による有意な変化の違いは認められなかった(分散分析アミラーゼ:P=0.484、コルチゾール:P=0.320)。 (2)健常人ボランティアにおけるVSA(Visual Analog Scale)の推移 健常人ボランティアに対し内田クレペリンテストによる30分間のストレス負荷を実施し、ストレス負荷前後でVSAによる主観的ストレス評価を行った。身体症状9項目中では、吐気、食欲、ほてり、だるさ、気力が、精神症状5項目中では疲労感、不安感、倦怠感、イライラ感、緊張感がそれぞれ解析可能であった。その結果、アロマテラピーの有無による主観的ストレス強度の推定周辺平均値に有意な変動が認められたのは、食欲と不安感であった(分散分析食欲:P=0.050、不安感:P;0.041)。 (3)抗がん剤投与患者におけるストレスマーカーの推移 抗がん剤投与患者でアロマテラピーの有無によりストレスマーカーがどのように変化したのかを推定周辺平均値で比較した。ストレスマーカーの変動はがん化学療法にアロマテラピーを併用した場合と併用しなかった場合との間で有意な変化は認められなかった(分散分析クロモグラニンA:P=0.346、アミラーゼ:P=0.799、コルチゾール:P=0.912)。 (4)抗がん剤投与患者におけるVASの推移 抗がん剤投与患者に対し治療前、治療開始30分後、治療終了時でVSAによる主観的ストレス評価を行った。身体症状11項目中では、食欲、ほてり、眠気、だるさ、気力の5項目が、精神症状7項目中では疲労感、不安感、イライラ感、緊張感、憂うつ、神経過敏の6項目がそれぞれ解析可能であった。その結果アロマテラピーの有無による、主観的ストレス強度の推定周辺平均値に有意な変化の違いは認められなかった。(分散分析)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
抗がん剤投与患者に対しては、点滴開始前に5種類の香りから最も心地よいと感じたアロマオイルを選択させていたにも関わらず、VASの変動にアロマテラピーの効果が認めらなかったことは予想外の結果であった。クロモグラニンAは、アロマテラピーによるストレス軽減効果を評価する上で有用な唾液中ストレスマーカーであると考えられた。しかし、抗がん剤投与患者では有意なストレス軽減効果を確認できず、その理由は不明である。また、アミラーゼは簡便に測定できることから、臨床現場で利用しやすいストレスマーカーではあるものの、ストレス軽減効果を判定するのに適しているとは確認できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、におい刺激に敏感な抗がん剤投与患者に対する悪影響をできるだけ回避する目的から、柑橘系アロマオイルを選択した。しかし、アロマオイルの効能を優先させ、アロマテラピーを実施することで、ストレス軽減効果が発現する可能性がある。また、アロマオイルには、皮膚からの吸収や、吸入による鼻粘膜や肺からの吸収により効果が発揮されるとの報告もあることから、より積極的な投与方法への変更も必要である。そこで、今後は患者数を増やし、健常人ボランティアで確認されたクロモグラニンAのストレスマーカーとしての有用性に着目し客観的評価を行い、アロマテラピーのストレス軽減効果に対する有用性を明らかにする予定である。 同時に、ヒトが心地よいと感じることから手軽に行われているアロマテラピーではあるが、現時点でアロマテラピーを医療現場へ導入しようとする際には、より慎重な対応が必要であると考えられる。
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