2012 Fiscal Year Annual Research Report
疾患による免疫系の活性化が肝薬物代謝酵素の機能に及ぼす影響
Project/Area Number |
22590159
|
Research Institution | Hyogo University of Health Sciences |
Principal Investigator |
九川 文彦 兵庫医療大学, 薬学部, 教授 (90205063)
|
Project Period (FY) |
2010-10-20 – 2015-03-31
|
Keywords | 肝薬物代謝酵素 / 免疫系賦活化 / 細菌感染 / I型アレルギー / 薬物動態学 / 医療薬剤学 |
Research Abstract |
感染症や炎症(特にアレルギー反応)に起因する免疫系シグナル伝達システムの活性化(一部不活化を含む)が、薬物代謝酵素の活性変動に及ぼす影響を検討することを、本研究の目的とする。 平成24年度は、マウスにおける薬物代謝酵素関連遺伝子群の発現変動に、炎症性サイトカインシグナル伝達カスケードの最上流に位置するNF-kappaBが関与している可能性を考え、平成23年度から引き続いて、NF-kappaBのsubunitに結合する核内転写制御関連タンパク質の同定を行った。まずNF-kappaBのsubunitの中で最大のp65 subunitに着目した。最初、GSP-pull down systemを用いた系での未知タンパク質の同定を試みた。しかし、p65 subunitに結合することがわかっている数種の核内転写制御因子や、非結合が既知の因子を使ったpositive or negative control実験では、大腸菌で発現させたグルタチオンS-トランスフェラーゼ融合p65タンパク質との結合に一部再現性の見られない現象が確認された。このため、GST-pull down systemの使用には、p65と結合する因子を“取りこぼす”可能性があると判断し、市販のp65抗体を使った免疫沈降実験、特にタンデム免疫沈降実験に切り替えた。その結果、MF-kappaBのp105 subunitを始めとするpositve or negative controlを用いたwestern blottingによって、タンデム免疫沈降の系が正常に機能していることを確認した。 無処置マウス、LPS投与マウス、アナフィラキシーマウスの間に、銀染色では、肉眼で5~6本程度のバンドの出現の差異が認められた。そこで、LC-Masを使ったショットガンプロテオミクスで,未知バンドの定性的同定を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、GST-pull down systemを使って、p65 subunitに結合する未知核内転写因子の同定を試みる予定であったが、それでは、“取りこぼし”の出る可能性があることに早い段階で気がついたのは幸いであった。代わりに採用した、一見ローテクともいえる免疫沈降法がうまく機能したことは、大きな弾みとなった。 以降の未知タンパク質の同定(プロテオミクス)には、京都大学大学院農学研究科の植田充美教授との共同研究を行い、LC-Masを使ったショットガン法、タンパク質の同定を行っている。すでに定性的にはいくつかの候補タンパク質が見つかっており、現在は、それらに対して定量的な解析を行っている。これらの候補は数種であるので、それらに的を絞った確定実験(例えば、miRNAを導入することでmRNAの発現を変動させ、NF-kappaB結合タンパク質の量を減少させたとき、CYP遺伝子の発現変動が起こるか、など)の解析は容易であると考えている。 以上のことにより、本研究は、概ね順調に進行していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度末の段階の研究成果では、LC-Masを用いたショットガンプロテオミクスにより、アナフィラキシーマウス(I型アレルギー)でのみNF-kappaB, p65 subunitと結合していることがわかったタンパク質は、10種類程度であることが明らかになった。またLPS投与マウスのみでは、5種類程度であった。これらは定性的な解析による結果である。そこで今後は、まず定量的な解析をやり直し、p65 subunitのモル数あたりどの程度のモル数の候補タンパク質が発現しているのかの計算を行い、候補を5種類以下に絞り込みたい。また、それらタンパク質の機能もデータベースによりわかるので、機能の面からも、アナフィラキシーマウスにのみ存在するNF-kappaB, p65 subunit結合転写因子を特定する。ここまでの研究は、ほぼ半年の時間でできると考えている。 次に、本当にこのタンパク質がNF-kappaBを介した、肝薬物代謝酵素の発現変動に影響を及ぼすのかについて検討する。アナフィラキシーマウスには、miRNAを導入することによりこれらのタンパク質の発現を低下させ、また、LPS投与マウスの肝細胞でこれらのタンパク質を発現させことによって、肝薬物代謝酵素の発現が止まるのかを検討し、確かに現在集目しているタンパク質が、肝薬物代謝酵素の発現変動に影響を与えることを確定する。 このような研究が示すものは、細菌感染(LPS投与)とI型アレルギー(アナフィラキシー)の間にある、NF-kappaBのp65 subunitを介したCYPの発現制御というメカニズムの存在であり,今までにはなかった、まったく新しい知見ということができる。
|