2011 Fiscal Year Annual Research Report
薬のリスク等をテーマとした医療分野へのリスクコミュニケーションの応用に関する研究
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22590584
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉田 佳督 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90506635)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樽本 英樹 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (50271705)
元吉 忠寛 関西大学, 大学院社会安全研究科, 准教授 (70362217)
大森 豊緑 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30510052)
坂本 純一 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70196088)
齋藤 充生 帝京平成大学, 薬学部, 准教授 (30392301)
早瀬 隆司 長崎大学, 水産環境科学総合研究科, 教授 (40301361)
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Keywords | 医療・福祉 / 社会医学 / 社会系心理学 / 社会学 / リスクコミュニケーション / リスクアナリシス / 認知の差異 |
Research Abstract |
医療現場には、特有な「認識の差異」の壁があり、リスクコミュニケーション(以下リスコミ)の取り組みが阻まれている。このため、この「認識の差異」の実態の解明をとおして、市民参加型の政策形成手法としてのリスコミを広く医療分野へも応用することを目的として、以下の研究を行った。 1)医療分野における専門家として医師6名及びクリニカルリサーチコーディネーター(以下CRC)3名については、すでに、医療社会学の観点から、心理学的手法を用いて、メンタルモデル解明のための面接調査を行ったところであるが、今年度新たに、CRC3名を対象に面接調査を行い、発話データからダイアグラムを作成し、さらに、そのダイアグラムの検証を行った。これにより、医療従事者間の「薬のリスクに関するメンタルモデル」の差異に関する解明を行うことができた。 2)医療における「認識の差異」の解明を行うために、インターネット調査により一般市民300名と医師200名から得られた調査結果を解析評価し、市民の認知度が低い医療用語であっても、医師は比較的知っているだろうと認知しており、言い換えれば、難解な医療用語であるほど、医師が思う以上に市民は認知していないことを数値化した形で「認知の差異」を解明した。 3)これまでに解明された結果を基に、乖離の状況を把握するとともにその乖離を最小化するための「方策」について、分野横断的にさらに詳細に検討するために、今年度、医療従事者として、新たに薬剤師を対象に、医療における「認知の差異」の解明のためのインターネット調査を実施した。 4)2日間同一のテーマを繰り返すという1日毎に独立・完結する形式で、1日目終了後に各パネリストに「市民と医療従事者の認知の差異」について,パネリストに認識してもらうという介入型試験としてのリスコミを開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
医療現場におけるリスクコミュニケーションの取り組みを阻害する要因と考えられる「認知の差異」の壁について、これまでに行った研究結果から、まず、市民の認知度が低い医療用語であっても、医師は比較的知っているだろうと認知しており、言い換えれば難解な医療用語であるほど、医師が思う以上に市民は認知していないことを数値化したデータを用いて示し、「認知の差異」を解明した。さらに、治験への参加経験の有無による医師の推定する患者の認知スコアの差異に関する結果からは,治験参加経験有りの医師は、無しの医師と比べて、患者の認知について厳しく評価していることが見いだされた。これは,医師が治験に参加することは,新薬の承認開発のためという本来の目的に加えて,医師がより市民の医療用語全般に関する認知の度合いを的確に知る機会を得る上でよい活動であることを示すものである。 これらの結果は、医療現場における円滑なリスクコミュニケーションの応用に向けて、認知の差異を最小化のための多くの手がかりを提供するものであり、有益な調査結果を得ることができた。 また、医療における「認知の差異」を解明し、その乖離を最小化するための「方策」について、分野横断的にさらに詳細に検討を行う観点から、薬剤師法25条の2の情報の提供の規定に基づき,薬局等において、現在、鋭意情報提供を行っている薬剤師について、今年度新たに対象として、インターネット調査を実施できたことは、本研究を遂行する上で大きな役割を果たしうるものである。 一方、薬のリスクに興味や関心があり、ある程度の知識がある市民のメンタルモデルの作成及び一般化可能性調査については、予備調査研究からは、一般市民とした場合には、メンタルモデルを作成する観点からは、振れ幅が大きいことから、調査対象について、一定の絞り込みをかけるなどの工夫をすることが必要であると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
医療分野における「認識の差異」の実態の解明をとおして、市民参加型の政策形成手法としてのリスコミを広くこの分野へ応用することを目的として、今後は以下のとおり、研究を推進する。 1)医療における「認知の差異」の解明のために、インターネット調査により、①一般市民300名と医師200名、②薬剤師200名の調査結果について解析・評価したところであるが、メンタルモデルの解明からCRCと医師の間の「治験に関するメンタルモデル」に差異があることが解明された。この結果を踏まえ、上記CRC6名のうち看護師が5名であり、薬剤師が1名であったことから、医療従事者としての看護師についても、その認知に関する調査を行うことが有益と思われた。このため、看護師200名について,医師や薬剤師と同様の調査をすることが必要であると考える。これにより「認知の差異」について、さらに詳細な検討を行うことが可能になるものと思われる。そして、これらの結果を比較考察し、その結果を基に乖離の状況を把握するとともに、その乖離を最小化するための「方策」について、医療社会学、心理学及び環境リスクコミュニケーション学の各分野の視点から分野横断的に検討する。 2)心理学的手法を用いて、「薬のリスク」に関する患者(一般市民)のメンタルモデルの解明を行うことも有益であると思われる。しかしながら予備調査研究からは、一般市民とした場合には、メンタルモデルを作成する観点からは、振れ幅が大きいことから、調査対象について、一定の絞り込みをかけるなどの工夫をすることが必要であると思われる。このため、この検討を踏まえた上で、これまでに得られている医療従事者のメンタルモデルとの比較を行い、その乖離を埋めるための「方策」を検討することが重要である。 3)研究成果を普及する観点から、研究内容をとりまとめ公表する。また、国内外の学会で発表を行う。
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