2012 Fiscal Year Annual Research Report
脳機能画像を用いた内臓感覚の記憶と認知変容過程の研究
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22590646
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鹿野 理子 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20344658)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 内臓感覚 / 条件付け / 心身相関 / 痛覚ネットワーク / 脳画像 |
Research Abstract |
心身医学においては、身体から脳へのシグナル、脳から末梢臓器へのシグナル、およびその相互作用がどのように調整されるのかを追及することが主要な課題である。本研究では、内臓刺激による条件付けおよびその消去課題を用いて、内臓刺激を侵害刺激として認知し、条件づけ反応として獲得され、その後、状況の変化に応じて、獲得された侵害反応を制御していく過程を検討する。すなわち、①内臓感覚はどのように脳において条件づけされ、記憶されるか、②条件付け反応はどのような形で末梢臓器において表出されるのか、③獲得された条件づけ反応は、状況の変化に伴い、どのように強化、あるいは減弱されていくのか、を検討することを目的とする。 24年度には、MRI撮像装置と腸管刺激のためのデバイス、バロスタット装置のシンクロナイゼーションに成功し、腸管刺激を視覚課題を組み合わせたシステムを構築して、ほぼ予定人数のfMRIおよび構造画像の撮像を行った。また、同被験者において、fMRI撮像とは別にバロスタットバックを用いた腸管刺激による内臓痛覚閾値の計測、また腸管刺激により誘発されるACTH、コルチゾール等の内分泌指標を採血して、個人ごとのストレス反応性検査を行った。脳画像、および大腸消化管運動、内分泌反応のデータの解析を行い、学会発表および論文化へ向けての準備を行った。予備的な解析として、脳画像のデータでは内臓感覚は脳内で痛みの記憶として条件づけされる、記憶の想起の際には海馬の活動が重要、という結果が得られているが、さらなる詳細な解析が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度までにfMRIスキャナーで大腸電気刺激、およびバロスタットによる大腸運動計測装置を用いた最善の撮像環境を確立するパイロット研究を行い、健常被験者数名で ブロックデザインを用いたシンプルな腸管電気刺激を行う課題を作成し、fMRI装置と腸管刺激装置(バロスタットマシン)をシンクロナイズさせ、撮像室の隣室に設置したバロスタット装置で撮像室から延長した配線により腸管運動を計測可能かどうか観察した。また、fMRI撮像を行い、SCR、心拍変動、呼吸変動も同時に観察した。そのデータを解析し、上記の実験系によりヒトで腸管刺激に伴う十分な脳活動の賦活を得ることができることを確認した。 その上で平成24年度には健常被験者 男性十数名、女性十数名を対象にfMRIを用いた内臓感覚刺激による条件づけ、消去課題を施行した。Event-related デザインとし、条件刺激としては、視覚刺激を、内臓刺激としては大腸刺激を用いた。条件づけでは視覚的条件刺激の終了直前に同期させ、腸管刺激を行った。非条件づけでは約4秒間の視覚刺激のみを提示した。条件付け獲得期、消去期、一定時間後の条件付け再燃期を設定し、脳活動を観察した。また、fMRI撮像に参加した同一被験者について、大腸刺激によるストレス反応性をみる課題を施行し、大腸刺激により誘発される、消化管運動の変化、内分泌反応(コルチゾール、ACTH:adrenocorticotropic hormone)、および自律神経系反応(Heart Rate Variability)の計測を行い、内臓反応に伴う末梢反応性の個人差のデータも収集した。加えて、すべての参加者において心理行動学検査として自己記入式、および面接による心理面での評価を行った。 当所の平成24年度までの実験計画を遂行できていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
ほぼ当所予定していた人数に対する、脳画像および末梢の反応性を見る検査を24年度までに終了したのでおおむね順調に進展していると思われる。しかしながなら、脳画像については撮像時の動きなどにより、欠損データが生じているので、数名の追加の検査が必要である。脳活動において、脳画像データに関しては、当所、時間経過、文脈に依存して条件付けの初期にはamygdala, hippocampus をはじめとする恐怖ネットワーク、および内臓感覚ネットワークが賦活され、次第に活動が減弱し、消去期にはmPFCの活動が賦活するという仮説を立てていた。現在までの予備的な検討では、活動初期には腸管刺激を伴わない条件刺激と非条件刺激のCueを比較において、恐怖ネットワークは賦活せず、むしろ活動が減弱し、内臓感覚ネットワークが条件付けにより賦活することが描出されている。さらに消去期では、同条件により、当所予想された内側前頭前野、および背外側前頭前野の賦活を観察した。また、条件付けの再燃期には前頭前野の活動に加え、海馬の活動を観察して、今後はネットワーク解析や時間および状況に依存した脳活動の変化を捉えるためにtime series 解析が必要であり、脳画像解析の専門家(研究協力者、ロンドン大学Kings collegeのBrammer教授、Giampeietro講師)に学びつつ、当所の目的である内臓感覚の記憶における前頭前野の役割を明らかにする必要がある。 また末梢の、腸管反応性データ、および内分泌(ACTH、コルチゾール反応)、自律神経系データ(Heart Rate Variability)との脳活動変化との関連の検討、各被験者の心理傾向のデータについても数名の追加検査が必要であり、それらの指標と脳活動の反応性の相関についても検討し総合的に現象を検討していく必要がある。
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