2011 Fiscal Year Annual Research Report
遺伝性QT延長症候群由来ヒト心筋細胞を用いた薬剤誘発性QT延長症候群の病態解明
Project/Area Number |
22590779
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
丹羽 良子 名古屋大学, 環境医学研究所, 研究員 (00216467)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神谷 香一郎 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (50194973)
|
Keywords | 薬剤誘発性 / QT延長症候群 / イオンチャネル / iPS細胞 |
Research Abstract |
薬物誘発性QT延長症候群の原因として、徐脈や低K血症など後天性の要因に加え、患者背景として心筋Kチャネル(IKr,IKs)やNaチャネルの遺伝子変異、SNPなどが潜在的な機能障害をもたらす可能性が指摘されている。本研究では、京都大山中らにより樹立されたヒトiPS細胞作成技術を用い、健常人と遺伝性QT延長症候群(LQT1,LQT2,LQT3,LQT7)患者から樹立したiPS細胞株から心筋細胞を分化誘導してQT延長を示す薬物を作用させ、遺伝子異常による潜在的イオンチャネル機能障害と薬物の相互作用の解析から、薬物誘発性QT延長症候群の病態解明とその予防・治療法を探索する。 本年度は前年度に引き続き、①健常者および遺伝性QT延長症候群(LQT1)患者からのiPS細胞の樹立を行った。インフォームドコンセントを取得したうえで、健常者及び遺伝性QT延長症候群LQT1とLQT7の患者の皮膚及びリンパ球を採取。株化した後にウイルスベクターを用いて、Oct3/4、Klf4、Sox2、c-Mycの4因子を遺伝子導入し、iPS細胞を樹立した。②ヒトiPS細胞から心筋細胞を誘導した。樹立したiPS細胞を、細胞浮遊法にて拍動する心筋細胞に分化させた。細胞形態や心筋特異遺伝子の発現を、免疫組織染色法とRT-PCRにて確認した。③ヒト再生心筋細胞の電気生理学的性質を検討した。心筋に分化した細胞塊標本に対し格子状多電極装置MEA(multi-electrode array)を用い、細胞外擬似心電図にて細胞塊の擬似QT時間や薬物に対する反応性を検討した。④HEK細胞に変異型イオンチャネルを発現させ、その性質と薬物による修飾作用を検討した。⑤患者iPS細胞由来心筋細胞を単離し、活動電位波形、各種イオン電流を測定している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、研究計画のおおよそは達成できている。すなわち、①健常人及びQT延長症候群患者由来のiPS細胞の樹立、②心筋細胞への分化誘導、③MEAを用いた細胞外擬似心電図、④HEK細胞にトランスフェクションした異常イオンチャネル遺伝子の発現電流と薬物による修飾作用については、特にLQT1症候群については順調に実験及び解析が行われた。その結果、健常者に比較してLQT1患者由来の細胞塊ではQT時間が延長していること、カテコラミン添加により異常自動能もしくは撃発活動によると思われる自発性不整脈が発生することを確認した。さらに、IKrチャネル阻害剤とIKsチャネル阻害剤を作用させると不整脈への影響がLQT1患者への臨床的抗不整脈効果を反映していることがわかった。また異常が同定されたLQT1チャネル(1893delC)遺伝子をHEK細胞に発現させ、パッチクランプにて発現電流を観察すると、dominant-negative様に抑制されることも見出した。⑤のパッチクランプ法による活動電位波形やイオン電流の観察と薬物による修飾作用の解析については、現在主として標本の作成上の問題で難航している。すなわち、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞塊から細胞を単離する際に酵素処理による細胞のダメージが強く、良好なイオン電流が観察されていない。現在、パッチクランプについては、共同研究という形式で他大学の専門家と連携を取って問題点の解決を試みている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後、さらにLQT1症候群については、再度iPS細胞から心筋細胞への分化が十分な標本を作成し、新たに細胞電気生理学的手法により活動電位、各種イオンチャネル活動の観察を行う予定である。 今後はさらにLQT7症候群(別名Andersen症候群)についても詳細に検討する予定である。すなわち、LQT7患者等の末梢血Tリンパ球からiPS細胞樹立し、心筋細胞に分化させて不整脈源性、薬物に対する反応を活動電位、イオン電流の測定、細胞内Caイオン動態と膜電位の同時計測、光学マッピングによる不整脈の可視化などの手法を用いて解析し、最適の薬物療法及び遺伝子治療の可能性について探索する。 Andersen症候群の不整脈発症の病態には細胞内Ca動態の関与が従来より示唆されており、その解明には電気生理学的解析に加え、Ca動態と膜電位の同時測定システムが必要である。連携研究者の荒船らは、光学フィルター、励起光源、カメラの撮影タイミングを同期制御することにより、心臓興奮伝播現象とCa動態を同一画角で同時計測可能なシステムを構築した(Trans Jpn Soc Med Biol Eng 2011)。 今後の研究計画遂行が順調であれば、Andersen症候群以外の遺伝性重症不整脈疾患例えばBrugada症候群、J波症候群などについて同様の検討を行いたい。
|
Research Products
(5 results)