2011 Fiscal Year Annual Research Report
神経変性症における脳内鉄サイクルの制御・調節障害のメタロミクス研究
Project/Area Number |
22590926
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
宮嶋 裕明 浜松医科大学, 医学部, 教授 (90221613)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河野 智 浜松医科大学, 医学部附属病院, 助教 (40397386)
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Keywords | 鉄 / 神経変性症 / ミトコンドリア / 脂質代謝 / 脳内鉄蓄積症 / セラミド / ライソゾーム |
Research Abstract |
遷移金属の鉄は、生命維持に必要な種々の蛋白質、酵素に必須であるが、一方、活性酸素やフリーラジカルの産生を力に触媒してアポトーシスや細胞膜の破壊、蛋白質の凝集などを促進する。したがって、生体内の鉄は欠乏あるいは過にならないように厳密に調整されている。しかし神経系での鉄代謝はほとんど解明されていなかった。われわれが脳内鉄蓄積をきたす神経変性症のaceruloplasminemiaを報告した頃より、鉄関連蛋白質が相次いで同定され、その機能と互作用について明らかにしてきた。 血液中のトランスフェリン鉄はトランスフェリン受容体を介したエンドサイトーシスによって血液脳関門を通って取り込まれ、脳脊髄液の吸収を介して循環系に戻る。しかし脳の鉄必要量は血液からの供給量よりも多く、脳内で鉄サイクルを形成して再利用していると考えられる。このため、体内の鉄欠乏あるいは鉄過剰の影響が脳内に及ぶことは少なく、代表的な鉄過剰症である遺伝性ヘモクロマトーシスでも体内への過剰な鉄蓄積はあるものの脳への異常鉄沈着は認められない。遺伝性鉄代謝異常症のaceruloplasminemiaやneuroferritinopathyでは脳内の鉄サイクルが障害され、鉄が蓄積するとともに神経変性症を生じることを生化学的、病理学的に証明した。ただ今のところ、中枢神経系の鉄代謝における詳細な制御・調節機構は未解明なところが多い。 今回は、古くから知られていた脳の鉄蓄積を伴う神経変性症Hallervorden-Spatz病やInfantile neuroaxonal dystrophyがCoenzyme Aを介したミトコンドリアのエネルギー産生、あるいは脂質代謝と関連していることの証拠を示した。さらにライソゾーム酵素の異常によるゴーシェ病でミトコンドリアへの鉄供給の障害によって鉄蓄積が起こること、また、膜脂質のセラミドを中心とした細胞内シグナル伝達の障害に伴い二次性の脳内鉄蓄積症を生じうることを示した。すなわち、神経細胞の活動はダイナミックな鉄代謝と深く関連していることが予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遺伝性の脳内鉄蓄積症である新たなaceruloplasminemiaやPantothenate kinase-associated neurodegenerationの家系を同定し、原因遺伝子の変異の同定を行い、その発現を培養細胞で行って機能解析をしてきた。これによりミトコンドリアのエネルギー産生障害を示すことができた。更に、新たな鉄蓄積症の可能性のある症例を2家系同定しており、既存の遺伝子変異がないことを確認している。今後は次世代DNAシークエンサーの活用を含め、原因遺伝子の同定を行っていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、既に同定した変異遺伝子の発現とともに、実際のミトコンドリアにおける脂質代謝障害について解析していく予定である。また、原因遺伝子の同定できていない遺伝性脳内鉄蓄積症の家系について、次世代DNAシークエンサーの活用を行って原因遺伝子の同定を行っていく予定である。
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