2011 Fiscal Year Annual Research Report
TrkBのリン酸化;側坐核における薬物依存習慣化の分子スイッチの機序解明と治療法
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22591257
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
戸田 重誠 金沢大学, 附属病院, 講師 (00323006)
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Keywords | 精神薬理 / 薬物依存 / 脳由来神経栄養因子 |
Research Abstract |
薬物依存の習慣化は、依存難治化の最大の要因の一つである。習慣化した行動の出力は、腹側線条体(側坐核)の機能に比べ、背外側線条体の機能が優位となったときに促進される。慢性的にコカインを投与された動物の側坐核では、脳由来神経栄養因子の受容体であるTrkBにおいて、新規の学習・記憶内容の統合に必要なリン酸化が、対照群に比べ著しく低下している。この事実は側坐核の可塑性が低下し、背外側線条体-側坐核間の回路間均衡が、背外側線条体側に傾いている可能性を示唆する。本研究では側坐核TrkBリン酸化の機能的意義を解明し、慢性コカイン投与動物の側坐核TrkBリン酸化を正常化することで、依存行動の治療を目指す。 本研究グループは、慢性にコカインを投与したラットの側坐核にLTPを誘導した際、TrkBのリン酸化部位のうち、Shcが結合するチロシン残基516(以下、Y516)でのリン酸化が、対照群に比べ有意に抑制されていることを確認した。一方、phospholipase C γ (PLCγ)が結合するチロシン残基817(同、Y817)のリン酸化は、対照群では殆ど誘導されないのに対し、慢性コカイン群では、LTP誘導以前から2倍以上の亢進を示した。最近の恐怖記憶課題を用いたラット扁桃体での研究から、Y817のリン酸化は記憶の獲得(=一時的な保持)に、一方、Y516のリン酸化は記憶の統合(=長期的な記憶貯蔵)に重要と推測されている(Musumeci et al, J.Neurosci,2009;上表)。本研究グループのこれまでの検討から、慢性コカイン投与後の側坐核では、LTPの早期相は亢進しているものの、後期相は成立していないことが確認されており(Toda et al.J.Neurosci,2009)、今回観察されたTrkBリン酸化のパターンと極めてよく符号する。そこで本研究では、以下のような作業仮説を立て、これを実験的に証明する;(1)慢性コカイン投与の結果、側坐核TrkBにおいて、Y817のリン酸化が促進するが、Y516のリン酸化は抑制される。このパターンは側坐核での後期LTPを阻害し、側坐核が司る「目的指向性行動」の獲得を抑制する「分子スイッチ」として働く。その結果、側坐核と背外側線条体間のバランスが崩れ、「習慣」出力が優位になる(=依存を促進)。(2)NACは、この異常なTrkBリン酸化を是正することで側坐核の可塑性を正常化する。すると背外側線条体と側坐核間のバランスが修正され、結果として習慣化した薬物要求行動の出力を抑制する。これまでの成果として、TrkB各リン酸化部位に対するTATペプチドの作成に成功し、現在行動薬理学実験に取りかかっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定通り、依存症の治療候補薬であるN-acetylcysteine(NAC)に関し、TrkBリン酸化への影響を検討したが、NACの効果は同リン酸化を介したものではないことを確認した。一方、TATペプチドの微小注入実験では、microsurgeryの手技に問題があったことが判明し、実験手技の最適化を行った。そのため、行動実験は予定より遅延した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、昨年度施行できなかったY516とY817を標的としたTATペプチドの、コカイン誘導性行動への影響について、改めてTATペプチドの微小注入実験を行って、コカイン誘発性行動へのTrkBリン酸化の関与を検討する予定である。動物の購入飼育、実験の消耗品費用に計50万、国際学会出張費に計30万、人件費、謝金に計10万、その他(印刷費など)に計10万、総計100万を直接経費として計上する。
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