2011 Fiscal Year Annual Research Report
統合失調症の病態においてトレースアミンはどう関わるか
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22591265
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
池本 桂子 福島県立医科大学, 医学部, 研究員 (90184449)
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Keywords | 統合失調症 / 中脳辺縁系 / ドーパミン / トレースアミン / トレースアミン関連受容体1型(TAAR1) / D-ニューロン / 免疫組織化学 / 芳香族アミノ酸脱炭酸酵素 |
Research Abstract |
福島精神疾患脳バンクのパラフィン切片と、トレースアミン関連受容体1型(TAAR1)の抗体(LSB社、Anti Trace Amine)を用いて、統合失調症前頭前皮質のTAAR1免疫陽性細胞数を予備的に計測したが、対照群との有意差は認めなかった。線条体など他の領域での比較検討を進めている。トレースアミンは脳内に微量しか存在せず、ヒトの脳での可視化は報告されていない。D-ニューロンが、線条体においてβ-フェニルエチルアミン(PEA)を産生しているという、直接的証拠はないが、文献的考察を行い、トレースアミン分解酵素であるモノアミン酸化酵素B型(MAOB)のノックアウトマウスの線条体におけるPEAの顕著な増加、MAOB阻害剤セレギリンの過眠への有効性、統合失調症線条体のD-ニューロン減少と昼夜逆転などの睡眠覚醒障害の出現という臨床的観察に基づき、PEAをはじめとするトレースアミンとその合成細胞のD-ニューロンが睡眠覚醒リズムに関与するものと考えた。TAAR1には、メタンフェタミン、LSD、チラミン、PEAなど多数のリガンドが存在する。中脳腹側被蓋野(VTA)ドーパミン(DA)ニューロン上のTAAR1は、その刺激の減弱により、VTAのDAニューロンの発火頻度を増加させることが報告され、その際、投射先の側坐核でのDA放出増加、DA過活動が生じる可能性が示唆された。統合失調症の神経幹細胞機能低下仮説から、統合失調症の側脳室脳室下帯の神経幹細胞の線条体D-ニューロンへの分化抑制により、線条体D-ニューロンの減少、おそらくはトレースアミン減少、TAAR1への刺激減弱に起因する中脳辺縁DA系過活動が生じるとする仮説(「D-細胞仮説」もしくは「D-ニューロン仮説」)を導き、統合失調症の中脳辺縁DA系過活動の分子基盤として提唱した。 D-ニューロン-TAAR1シグナルの解明は、新規向精神薬開発において重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
東日本大震災後、いわき市の3次救命救急センターのある災害拠点病院勤務を1年間以上継続したため、免疫組織化学的研究は遅れ、モデル動物の実験は行えなかった。しかし、放射能回避のため、屋内にて文献的考察を進め、統合失調症の中脳辺縁DA系の過活動に、線条体D-ニューロンの減少とTAAR1シグナルの低下が関与するのではないかとの仮説を提唱し、英文のオンラインジャーナル2誌に受理され、さらに1誌はrevise中である。
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Strategy for Future Research Activity |
仮説の検証が必要である。D-ニューロンの病理については、症例を増やして線条体・側坐核の領域の再検討と、他の領域の検索が必要である。トレースアミンの合成細胞としては、AADC単独細胞以外に、チロシン水酸化酵素単独細胞の検索を行う。とくに、死後から固定までの時間が短く、免疫組織化学の抗原性保持のよい4%パラホルムアルデヒド固定の脳サンプルを用いて症例数を増やす。 動物モデルを用いた研究は、大幅に遅れているが、スタッフが多く、習熟した他施設との共同研究によって推進することを考慮する。 TAAR1が、睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬などの創薬の標的受容体であり、将来的には、新規向精神薬の開発へむけてトランスレーショナルリサーチを行う。
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Research Products
(30 results)