2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22591305
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
吉村 匡史 関西医科大学, 医学部, 講師 (10351553)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木下 利彦 関西医科大学, 医学部, 教授 (20186290)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 統合失調症 / 定量脳波 / 抗精神病薬 / 薬物脳波 / アリピプラゾール / sLORETA |
Research Abstract |
【方法】DSM-IV-TRにて診断された4名(症例A-D)の未治療妄想型統合失調症患者に対して、抗精神病薬アリピプラゾール(以下、APZ)を主剤として加療を行った。APZ投与前と投与開始約4週間後に、国際10/20法に基づいた19電極から、両耳朶を基準電極として安静閉眼時脳波を約5分間記録した。各々の脳波記録から、視察的にアーチファクトの混入を認めない計40秒間(20エポック)を抽出して解析に供した。解析にはsLORETAを用いた。各脳波記録のδ、θ、α1、α2、β1、β2、β3の7周波数帯域において脳内電流密度を算出し、その結果をsLORETAの正常データベースであるBRL- sLORETA Normsと比較した。得られた結果と本データベースとの差異はz-scoreによって示され、その絶対値が3以上の場合に有意な差が存在するとみなす。【結果】APZ投与後、全例においてPANSS総得点の低下を認めたが、その変化率は症例A-Dにおいてそれぞれ13%、11%、53%、9%であった。なお、症例DのPANSS陽性尺度は33%の改善を認めた。症例Aでは、投与前には右前頭部・側頭部のδ活動が健常群に比して有意に高かったが、投与後にその有意性は消失した。症例Bでは、服用前後での明らかな変化は認めなかった。症例Cでは、APZ服用後にα1~β2帯域における帯状回の電流密度の低さが改善されていた。症例Dでは、APZ服用後にδ帯域における左側頭部の活動が著しく増加していた。【結語】症例A、Dでの治療後におけるδ活動の変化および症例Cでのα1活動の変化は、APZが脳機能を正常化の方向に導いた可能性が示唆された。症例Dでは治療後の左側頭部でのδ活動の著しい増加を脳機能の抑制と解釈すると、本例では治療によって聴覚に関連する部位の活動が抑制されたものと考えられ、これは幻聴の改善と関連している可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成23年度末時点で統合失調症患者および健常者各12例(累計各24例)の脳波記録を終了している予定であり、平成24年度も更に対象数を増やしている予定であったが、平成24年度末時点で統合失調症患者の脳波4例に留まっており、健常者の脳波はまだ測定できていない。 統合失調症患者の脳波記録が進んでいない理由として、研究協力者の都合により、統合失調症症例の選出に必要な調査が遅延していることが挙げられるが、選出方法に問題があったと考えられ、次年度の課題とする。 健常者の脳波記録を行っていない理由としては、現在のところ比較対象に用いている脳波データは、新たに測定した健常者の脳波ではなく、すでに存在する健常者データベースであることが挙げられるが、次年度においては健常者の脳波測定も予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
統合失調症症例の対象選出に向けて鋭意努力を続ける。教室員への本研究のさらなる周知や関連の医療機関に対する症例提供の呼びかけなどの対策が十分に徹底できておらず、今後より徹底した取り組みを行う。また、分担者を1名追加することで研究の推進を図る。さらに、本研究で解析手法として用いるLORETA法の開発者であるRoberto D. Pascual-Marqui博士(滋賀医科大学,チューリヒ大学KEY研究所)を定期的に本学へ招き、LORETA法やその他の脳波解析法(functional-connectivity、EEG-microstate)に関する講義・実習の受講を継続する。LORETA法は、頭皮上より測定した脳波から脳内の電気活動を三次元的に推定する手法であり、1994年にPascual-Marqui博士が報告して以降300件以上の論文において用いられている。頭皮上脳波から脳内電気活動を観察しうるという点は画期的であり、広く用いられている手法であることから本研究で得られた結果を他の研究と比較検討できる機会も多い。functional-connectivityは、脳内の機能的連絡を頭皮上脳波から評価する手法である。脳内の機能的連絡は、従来はfMRIを主な手段として研究が進められてきたが、functional-connectivityはfMRIと比較して簡便かつ侵襲の少ない脳波を用いて脳内機能的連絡を評価しうる点が目新しい。また、EEG-microstateは、脳波を構成する時間的最小(ms)単位を抽出する手法であり、脳波の特徴である時間解像能の高さを生かした手法である。これらの手法を組み合わせることで、脳内神経生理的変化を多角的に(三次元的、機能的、時間的)捉えることが可能である。これらの解析手法に習熟することは本研究の遂行において必須と考えられる。
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