2012 Fiscal Year Annual Research Report
蝸牛内リンパ腔電位の調節における辺縁細胞Ca2+透過性チャネルの役割
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22591892
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Research Institution | Kansai University of Welfare Sciences |
Principal Investigator |
森 禎章 関西福祉科学大学, 保健医療学部, 教授 (70268192)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 京子(高巻京子) 大阪医科大学, 医学部, 助教 (40368105)
乾 崇樹 大阪医科大学, 医学部, 助教 (60465614)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 蝸牛内直流電位 / サイクリックヌクレオチド / 細胞内Ca2+ / イオンチャネル |
Research Abstract |
本研究は、モルモット蝸牛の内リンパ直流電位 (EP)の発生機構ならびに調節機構を解明するため、電気生理学的手法を用いて実験を行うものである。 正常状態において蝸牛内リンパ腔は約+80 mVのEPを有している。この電位は内耳血管条の中間細胞において発生すると考えられているが、その発生・調節機構については未だ不明な点が多い。昨年度までの研究により、正常のモルモット蝸牛が有している約+80 mVのEPは、無呼吸負荷により著明に低下するが、辺縁細胞に面した内リンパ腔に膜透過性Ca2+キレート剤(EGTA/AM)、Ca2+チャネル阻害剤(ニフェジピン)、PKC阻害剤(GF109203X)を投与すると、EPの低下が抑制されることを見いだした。これは、無呼吸負荷時には辺縁細胞内でPKCの活性化が生じ、L型Ca2+チャネルが開孔することで細胞内Ca2+濃度が上昇し、EPが低下することを示している。したがって、EPの発生・調節機構には血管条中間細胞のみならず、辺縁細胞が重要な役割を果たしていることが明らかである。 そこで、本年度は辺縁細胞においてEPの発生に関与してるイオンチャネルを検討するための実験を行った。内リンパ腔に膜透過性のc-AMP(8BrcAMP)やcGMP(8Br-cGMP)を投与するとEPが著明に上昇する事から、辺縁細胞におけるEPの発生・調節にはPKAおよびPKGを介した蛋白リン酸化過程などの細胞内機序が関与していることが明らかとなった。以上より、EP発生・調節機構には辺縁細胞内Ca2+濃度のみならず、PKA・PKG依存性蛋白リン酸化過程を介したイオンチャネルなどの活性調節が重要な役割を果たしてることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
我々は、蝸牛内直流電位(EP)の発生調節機構について検討し、無呼吸負荷に伴うEPの低下には血管条辺縁細胞におけるL型Ca2+チャネルの開孔が細胞内Ca2+濃度上昇をおこすことから、辺縁細胞内のCa2+濃度がEP調節に関わっていることを明らかにしてきた。 そこで。本申請に関わる研究において、無呼吸負荷にともないL型Ca2+チャネルが開孔する機序の検討を行った結果、無呼吸負荷時には辺縁細胞内でフォスフォリパーゼCが活性化することでPKCが活性化すること、さらにこれがL型Ca2+チャネルをリン酸化することでこのチャネルが活性化し、細胞内にCa2+が流入することが明らかとなった。したがって、EPの調節因子として細胞内Ca2+が重要であることを明らかとなった。この結果は、国際学会を含む学会等で発表した(計6回)。さらに、本年度の研究において内リンパ腔に膜透過性のサイクリックヌクレオチドである8Br-cAMPや8Br-cGMPを投与するとEPが上昇する事が明らかになった。このため、新たに辺縁細胞内のサイクリックヌクレオチドの投与に伴う蛋白リン酸化過程がEP調節因子として重要である可能性が示唆されたため、現在その作用機序を検討中である。 しかしながら、平成23年4月に研究代表者が大阪医科大学より関西福祉科学大学へ異動したため、実験の進行に遅延を来しているのが現状である。平成23年度は異動にともない新たな研究体制を模索するための時間を要したが、平成24年度には研究分担者の協力の下、新たな研究体制を構築することが可能となり、本年度報告した結果を見出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、内リンパ腔へのサイクリックヌクレオチド投与によりEPが上昇する機序の解明を目指し、実験を行う。本年度の検討において、膜透過性のサイクリックヌクレオチドである8Br-cAMPや8Br-cGMPを投与するとEPが上昇することを見出している。そこで、これらに関連した蛋白リン酸化過程の検討をおこなうために、蛋白リン酸化酵素であるPKAの阻害剤であるPKAiや、PKGの阻害剤であるKT5823を内リンパ腔に投与し、サイクリックヌクレオチド投与によるEP上昇にこれらの細胞内リン酸化が関与しているのかを検討する。さらに、内リンパ腔へサイクリックヌクレオチド分解酵素であるPDEの阻害剤を投与し、EPへの影響を観察するとともに、サイクリックヌクレオチド産生酵素であるアデニル酸シクラーゼやグアニル酸シクラーゼの阻害剤を内リンパ腔に投与して、EPへの影響を観察する。これらの検討を加えることで、内リンパ腔への膜透過性サイクリックヌクレオチドが蛋白リン酸化過程を介してEPの調節に関与していることを確認できるとともに、辺縁細胞内の内在性サイクリックヌクレオチドがEPの発生・調節機構に関与している事を明らかにすることが可能となる。 これまでの研究から、辺縁細胞内Ca2+濃度とサイクリックヌクレオチドがEPを調節する因子として重要であることが明らかである。このことは、血流不全などによりもたらされる血管条障害においてEPが低下した場合、辺縁細胞内のCa2+濃度を低下させること、さらには辺縁細胞内のPKA・PKG依存性蛋白リン酸化過程を活性化させることが、EPを改善させる方策として重要であることを示している。したがって、本研究を継続して行うことは、生理学的なEPの発生・調節機構の解明のみならず、末梢性感音難聴治療法の開発にも役立つものと考える。
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Research Products
(5 results)