2012 Fiscal Year Annual Research Report
急性腎傷害における心房性ナトリウム利尿ペプチドの腎保護作用メカニズムの研究
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22592010
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
三高 千恵子 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (20126254)
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Project Period (FY) |
2010-10-20 – 2015-03-31
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Keywords | 急性腎傷害 / 心房性ナトリウム利尿ペプチド / 多臓器障害症候群 / 虚血・再灌流障害 / 抗炎症反応 |
Research Abstract |
【目的】重症患者において、急性腎傷害(AKI)は頻繁に起こる合併症で、AKIに対する早期治療が予後を改善する。心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)は、抗炎症作用を有している。腎の虚血・再灌流傷害ラットモデルにおいて、ANP後投与が腎を保護し、肺や心臓への炎症の波及を阻止できるかを検討した。 【対象】雄SDラット 【方法】ラットをペントバルビタールにて麻酔。右内頸動脈にカニューレを挿入し動脈圧の測定と採血を行った。右大腿静脈にカニューレを挿入し生食を6ml/kg/hrの速度で持続投与。3群に分類1) Sham control (n=6):腹部皮膚切開のみ、2) Vehicle投与急性腎傷害群(n=10):左側腎茎(腎静脈、腎動脈)を露出し30分クランプ、クランプ解除後3時間経過観察、3)ANP投与急性腎傷害群(n=10):腎動静脈をクランプ後5分からANPに切り替え、0.2μg/kg/min(生食で希釈6ml/kg/hr)の速度で3時間持続投与。測定項目:心拍数、血圧、動脈血液ガス、血漿クレアチニン濃度、血漿乳酸値、血漿K濃度。測定時間:前、1、2、3時間、3時間後にペントバルビタールを大量投与後、腎、肺、心臓を摘出し、炎症性サイトカインIL-6のmRNA測定用に冷凍保存、蛍光染色用に冷蔵保存した。 【結果】Vehicle投与急性腎傷害群では、代謝性アシドーシス、乳酸値の増加、肺水腫、腎、肺、心組織のIL-6のmRNA増加を認めた。ANP投与急性腎傷害群では、代謝性アシドーシスや乳酸値増加の阻止、肺水腫の抑制、肺、腎、心組織でのIL-6mRNAの減少を認め、肺の組織のNF-κB発現や左腎のIL-6の発現を抑制した。ANPは腎の虚血・再灌流による急性腎傷害を阻止し、肺や心臓の炎症反応も抑制することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
急性腎傷害モデルとして、ラット左腎の腎動静脈を30分クランプする虚血・再灌流障害モデルを作成した。腎の虚血・再灌流モデルでは、代謝性アシド-シス、肺水腫、血中クレアチニン濃度や乳酸値の上昇、腎や肺組織のサイトカイン(TNF-α, IL-1β, IL-6)のmRNAの上昇が認められた。 1)心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の前投与:腎の虚血・再灌流障害モデルに対し、腎動静脈クランプ前5分からANPを0.2μg/kg/minの速度で投与した場合には、代謝性アシド-シス、肺水腫、血中クレアチニン濃度や乳酸値の上昇、腎や肺組織のサイトカイン(TNF-α, IL-1β, IL-6)のmRNAの上昇を抑制することができた。また、腎の虚血・再灌流障害モデルで、腎では血管内皮細胞にTNF-αが発現し、肺では気管支上皮細胞にTNF-αが発現し、ANPはこれを減弱させた。これより、ANPは腎ー肺のクロストークを抑制する作用があることが示唆された。 2)ANPの後投与:腎の虚血・再灌流障害モデルに対し、腎動静脈クランプの5分後からANPを0.2μg/kg/minの速度で投与した場合には、やはり代謝性アシド-シス、肺水腫、血中クレアチニン濃度、血中カリウム濃度、乳酸値の上昇や、腎、肺、心臓の組織の炎症性サイトカインであるIL-6のmRNAの上昇を抑制することができた。また、腎の虚血・再灌流障害モデルにおいて、肺の組織のNF-κB発現や左腎のIL-6の発現は増加したが、ANPはこれらを抑制した。これよりANPは虚血・再灌流障害後に投与しても腎や肺に対する保護効果や腎ー肺のクロストークを抑制することが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
敗血症性ショックにおける感染巣の検索には造影CT、また急性心筋梗塞、冠動脈症候群の際には冠動脈造影が必須となる。しかし、造影剤誘発性の急性腎傷害が発症し、重症化すると腎代替療法をせざるを得なくなる。また、急性腎傷害により遠位臓器(例、肺)に傷害が及び多臓器不全が惹起されると患者の転帰に影響する。そのため、急性腎傷害に対する早期治療が患者の予後を改善することになる。我々は、腎の虚血・再灌流モデルにおいて、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)が抗炎症作用により腎保護作用や肺の炎症を抑制することを示してきた。そこで、造影剤誘発性の急性腎傷害ラットモデルにおいて、ANP投与が造影剤誘発性の急性腎傷害を阻止し、腎保護作用を有するか、また遠位の臓器である肺に炎症が及ぶのを阻止できるか否かを検討する。 造影剤誘発性腎傷害モデル 【対象】ラット(male Sprague-Dawley rats)【方法】ラットの腹腔内にペントバルビタール(50mg/kg)を注入し麻酔をかける。右内頸動脈にカニューレを挿入し、動脈圧の測定および採血を行う。右大腿静脈にカニューレを挿入し、生理食塩水(6ml/kg/hr)の輸液を行う。ラットを3群に分類する。1)Sham-operated control群:上記操作を行い、6時間経過観察。2) Vehicle投与急性腎傷害群:造影剤を投与する5分前より生理食塩水(6ml/kg/hr)の輸液を行う。造影剤のiopamidol 2.9g iodine/kgを2.5分で静注する。3)ANP投与急性腎傷害群:造影剤を投与する5分前から、生食輸液からANPに切り替え、ANPを0.2μg/kg/min(生食で希釈6ml/kg/hr)の速度で6時間持続投与。造影剤のiopamidol 2.9g iodine/kgを2.5分で静注する。
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Research Products
(2 results)