2011 Fiscal Year Annual Research Report
クロルヘキシジン含有・歯科接着剤の抗菌性、接着耐久性の研究
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22592114
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
平石 典子 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (20567747)
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Keywords | 歯科材料 / 象牙質 / MMPs / 接着歯学 / クロルヘキシジン |
Research Abstract |
一般にクロルヘキシジンは感染歯質の残存細菌を減らす抗菌作用について、長年研究が行われており、研究結果が既に国内外で発表されている。申請者も22年度は抗菌性の効果を主に取り扱ってきたが、23年度は、クロルヘキシジンのもう一つの特性である、コラーゲン分解酵素阻害剤としての効果の評価に取り組んだ。レジンシステムは操作ステップの減少により、治療時間が少なくすむことから、とりわけ小児・予防歯科領域で重要となってきている。虫歯を 、極力削らないで治す方法、MI治療(Minimal Intervention…最小限の侵襲)が注目されている。この治療を完結させるためには、虫歯取り残しによる再発を、抗菌作用のある歯科材料で抑え、また虫歯菌から産出された酸による歯質の脱灰を抑えることも必要である。さらに脱灰部の再石灰化を促すためには、有機質の保護が必要不可欠であるため、質象牙質有機質の主な成分であるType Iコラーゲンの病的劣化の抑制する効果のある歯科材料の応用が課題になっている。 コラーゲン劣化の因子として象牙質基質から放出されるhost-derived EnzymeであるMMP(Matrix Metalloproteinases)の存在が指摘されている。クロルヘキシジンはこのMMPs阻害効果があるといわれている。申請者は、23年度は、コラーゲンを如何にMMPsによる病理的劣化から抑制するかを、in vitro 実験で確認し、コラーゲンの保護された歯質が如何に再石灰化するかを検討した。象牙質コラーゲンの劣化を抑制させる効果を備えるクロルヘキシジンを、う蝕に伴う脱灰の抑制効果の可能性も調べ、包括的に象牙質有機質の保護効果があれば、修復接着界面での象牙質コラーゲンの劣化を抑制させ、またう蝕予防、治療に応用が示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度の研究目的は2つの要点に分かれた。接着界面の接着性劣化のシステムと、クロルヘキシジンの歯質有機質コラーゲンのMMPsの阻害効果による、脱灰部の再石灰化の評価である。前者については、近年の進歩したレジン接着システムにおいても、微小のレベルでは有機質がレジンに保護されない粗悪な接着界面が存在し、露出したコラーゲンが病理生理学的に劣化されることを、分子、原子レベルで調べた。分子レベルでの解析法の一つであるNMRを応用した歯科接着性モノマーのスクリーニングは、モノマーの加水分解、またはミネラルとの相互作用が報告されている。しかし象牙質有機質との相互作用は未発表であり、コラーゲンと接着性モノマーの結合性、複合体としての動向は興味深い分析である。今回は飽和移動差(Saturation Transfer Difference, STD)NMR法を用い、コラーゲンモデルと接着性モノマーの相互作用を評価したところ、比較的親水性の高いレジンモノマーは、コラーゲン:に対する総合作用はなく、コラーゲンはレジンで保護されていないことが分かった (日本歯科保存学会2011年度秋季発表)。後者については、クロルヘキシジンがコラーゲン分解酵素によるコラーゲンの崩壊を抑制し、う蝕の進行抑制または再石灰化に有用な化合物であることを、牛歯根面象牙質を用いpHcycling法にて評価した。クロルヘキシジン2000ppmは、コントロールと比較し有意義(p<0.05)にコラーゲンの崩壊を抑制した。また、脱灰深度、脱灰量では、コントロールより少なかった。クロルヘキシジンは、、コラゲナーゼによるコラーゲンの崩壊を抑制し、脱灰抑制、または再石灰化促進効果が見られ、象牙質う蝕治療効果が示唆された(日本歯科保存学会2011年度春季発表)。
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Strategy for Future Research Activity |
本来予定していた研究協力者(外部機関勤務)の協力が困難になり、また同等の技術をもつ他の研究協力者確保が出来なかったため、当初計画のバイオフィルムモデルを使った抗菌性試験を、細胞毒性テストに変更し、材料の評価を行う予定である。より長期効果的な薬剤の放出を考え、歯科接着材料そのものにクロルヘキシジンを付加する試みを行うが、感染象牙質の残存細菌を減らす効果と相反して、細胞毒性がみられれば、歯髄細胞に刺激となり、術後の炎症や、炎症、更には壊死をもたらすことが懸念される。特に深いう蝕疾患部では、歯髄細胞の保護を重視したい。これまでの国内外のクロルヘキシジンの研究では、接着界面での象牙質コラーゲンの劣化を抑制させる効果を追求した内容であったが、同時に細部毒性をコントロール最小限に抑えることは、これまで言及はされていない。申請者は歯髄細胞を使い、に生細胞が持つ機能や物質を分析する、MTTアッセイ、LDH毒性テストを行う。 従来の歯科接着システムの問題点を再追求すべく、i)リン酸処理、また酸性のレジンモノマーでコラーゲン分解酵素が活性化されること、ii)レジンモノマーによる歯髄細胞の刺激を総括的に指摘したい。
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