Research Abstract |
Propofolは,調節性に優れた静脈麻酔薬であり,全身麻酔の導入・維持や静脈内鎮静法に頻用されている。既に,propofolはGABAA受容体に作用することによって鎮静効果を発揮することが知られている一方,propofolの鎮痛作用については未だ定説を見ない。 研究代表者は,痛みの高次中枢であると考えられている大脳皮質島領野(島皮質)に焦点を当て,島皮質における興奮性神経伝達および抑制性神経伝達に対するpropofolの修飾作用を明らかにすることを目的として研究を進めてきた。これまでの実験から,興奮性細胞と抑制性細胞の両方において,propofolは抑制性シナプス後電流の持続時間を延長させることがわかり,propofolは細胞の活動を同期させる可能性が考えられた。そこで,propofolはどのように興奮性細胞の発火同期性に影響するかを検討した。方法としては,島皮質を含むラット脳スライス標本を作製し,島皮質に存在する抑制性細胞および興奮性細胞から同時にホールセル・パッチクランプ記録を行い,単一の抑制性細胞から同時に2つ以上の興奮性細胞に軸索投射を持つペアを探し,興奮性細胞間の発火同期性を観察した。その結果,抑制性細胞から抑制性入力を受けた際の興奮性細胞の発火同期性は,propofol(3μM)灌流投与により増強した。近年,全身麻酔による意識消失時に,大脳皮質全体において,振幅が大きく8~13Hz程度の小さい周波数をもつ,アルファ波様の特徴的な脳波が誘発されることが報告されている(Ching et al,,2010)。今回観察されたpropofolによる興奮性細胞の発火同期性の増強は,このアルファ波の発生機序を担っていると考えられる。
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