2011 Fiscal Year Annual Research Report
近縁種が織りなす寄生関係のケミカルエコロジー多様性の化学的解明
Project/Area Number |
22603009
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
犀川 陽子 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (20348824)
|
Keywords | 有機化学 / 菌類 / 微生物 / 進化 / 生体分子 / ケミカルエコロジー / 国際情報交換 / 近縁種 |
Research Abstract |
近縁種である2種のタマバエがブナの葉に卵を産みつけることによってできる虫えいの多様性および近縁種である2組の菌の間で誘引、阻害現象が見られることを分子レベルで解明することを目的として研究を行っている、、以下に2つの研究テーマについての結果を示す。 ダマバエがブナの葉の組織を異常発達させてできる虫えい、ブナハアカゲタマフシに注目し、その虫えいの特徴的な桃色の主要色素としてアントシアニンの一種であるシアニジン-βガラクトシドを単離し、改めて構造を確認した。また、ブナの葉と虫えいの色素量をHPLCのクロマトグラムにより比較し、虫えい中のシアニジン-βガラクトシドが葉に比べて10倍程度多く生産されていることを明らかにした。これを受けて、虫えい中にアントシアニン類を異常生産させる物質があると仮定し、その評価系の確立を試みている.ブナ自体の組織培養は困難であったので、シロイヌナズナを代用として用いることにし、アントシアニン類の生合成を促進させるポジティブコントロールとしてコロナチンを合成して用いている。 互いに近縁の寄生菌P1、P2が、互いに近縁の真菌C1,C2を侵食する際に、ある組み合わせでは誘引現象、ある組み合わせでは侵食に対する阻害現象が見られる。このうち、今年度は成長の速い寄生菌P2に注目してC1からの誘引物質を探索した。C1とP2が互いに接していなくても誘引現象が見られることから誘引物質は揮発性物質であると考えられたため、抽出物の分離、濃縮操作を注意しながら精製を進め、最終的に新規の芳香族化合物を単離、構造決定した。また、この誘引物質を3工程にて化学合成し、0.1mg/mLの濃度10μLをプレート内に滴下することで強い誘引活性を示すことを明らかにした。この誘引物質は高濃度ではP2の阻害活性を示すため、もう一つの目的物質である菌の阻害物質との関連性を調べている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
二つのテーマのうち、虫えいの多様性については比較対象の虫えい(ブナハマルタマフシ)の確保が難しい点から難航している。虫えいの特徴である赤色色素については明らかとなったので、ブナハマルタマフシが得られれば多様性の議論はできる予定である。もう一つのテーマに関わる誘引物質、阻害物質の単離、構造決定は昨年度までかかったため進度としては遅れているが、確立した手法により最終年度は進展すると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究は初年度に比べて進展したが、本研究の目的である「近縁種との比較」の段階には至っていない。一つは比較対象の試料の確保が難しいこと、もう一つは研究を始めた時点の試料からの目的物質の単離、構造決定に予定よりも時間がかかったためである。前者の解決策として本年度は比較対象として選んだ種に限らず、近縁種にあたる研究対象を広く探索する予定である。また、後者については、他の近縁種の試料を確保でき次第、今年度の知見を基に網羅的に成分探索を行う予定である。本研究助成により研究環境は格段に向上しているが、未だ培養スケールや抽出物取扱スケールに制限がかかるので、必要器具や機械を補填して最終年度に迅速にこれらの操作ができるようにする。
|