2011 Fiscal Year Annual Research Report
社会的排除層の自立支援に取り組む日本型社会的企業モデル構築に関する実証的研究
Project/Area Number |
22614005
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Research Institution | Seigakuin University |
Principal Investigator |
大高 研道 聖学院大学, 政治経済学部, 教授 (00364323)
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Keywords | 社会的企業 / 社会的排除 / 自立支援 / 正統的周辺参加 / 協同労働 / エンパワメント / コミュニティ / 社会教育 |
Research Abstract |
H23年度は、わが国の社会的企業の典型である労働者協同組合(労協)を主たる調査対象に、(1)組合員意識アンケート分析、(2)社会的排除層の自立支援現場のヒアリング調査を実施した。これらの調査を通して、協同エンパワメントに向けた正統的周辺参加型アプローチを社会的企業論に適用する際の課題と可能性を明らかにしようと試みた。前者に関しては、実務者との共同検討作業を通して、労協での働き方の今日的特徴および課題を摘出することができた。その分析結果は協同総合研究所報『協同の発見』に、労協の歴史的展開過程および今日的特徴を検討した論稿は日本協同組合学会誌に、それぞれ掲載された。後者に関しては、正統的周辺参加論(レイブ/ウェンガー)の社会的企業論への適用にむけた検討を、若者自立支援実践を題材に試みた。研究成果は、若者自立支援にかかわる諸論稿として発表するとともに、国内の関連学会・研究会および国際学会等(韓国・イタリア)で報告した。 上記の考察を通して、多様性を享受しあえる柔軟な働き方の実現に向けた実践的枠組み再構築の重要性を確認することができた。望むものは誰もが働くことのできる労働環境の形成は重要な課題ではあるが、その実現を同質性・均質性を前提とした雇用ではなく、多様性を前提とした柔軟な働き方を通して追求することが課題の中核部分に位置することが明確になった。このことは、完全雇用から完全従事社会への転換を実質化するうえでも重要な視点であると考えられる。また、ヒアリング調査からは、若者自立支援・就労支援後の生活・就労に大きな困難性を抱えている当事者および支援者の存在が大きくクローズアップされることとなった。社会的排除層の自立支援と働き方の見直しに人間発達の視点を織り込んだ社会的企業モデルの開発は、自立支援政策が制度疲労を起こしつつある今日的状況においてますます重要な検討領域になっていくものと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の年度計画である社会的企業(労働者協同組合)組合員意識調査および若者自立支援の取り組みを題材にした正統的周辺参加論アプローチの検討に加え、日本型社会的企業モデルの相対化を念頭に置いた東アジアの社会的企業研究の動向についても一定程度の知見を得、また研究者ネットワークを形成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き労働者協同組合を軸とした日本型社会的企業モデルの構築にむけた検討を、その労働統合機能に焦点化して行いたい。わが国の自立支援政策が就労への橋渡し機能を十分に発揮できずにいる今日的状況に鑑み、分析枠組みの検討の際には、イギリスをはじめとした欧州の経験からも学ぶ必要性を感じている。また、アジア(東アジア)との比較の視点を織り込んだ考察も、その実践の相対化に役立つと考えているため、可能な限り情報収集・調査に取り組みたい。
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