Research Abstract |
本研究の2本の柱のうち,「多様な立場の者が求める『音環境の望ましさ』を具体的に明らかにする」という項目について,今年度は特に,「公共空間における拡声器等による音声付加のあり方」という問題について,高齢者が会話しやすい音環境の条件の検討を行った.その結果,高齢者の中には,周囲に会話をしている人がいる環境では,適切な音量で背景音楽(BGM)を加えることで,目的とする音声と背景騒音とのS/N比が悪化するにも関わらず,単語了解度の成績が上昇するものが少なからずいることが明らかとなった.そして,この傾向は,今回実験を行った70歳以上の被験者全てに見られた.また,「静寂な自然環境である地域での道路新設のあり方の検討」という問題の検討を行うため,該当する環境において,心理実験に用いるためのバイノーラル音声と映像の収集を行った. もう1本の研究の柱である,「音環境の『公正さ』についての基礎的検討」という項目について,今年度は,日本における「騒音に関する環境基準」「自動車単体騒音に係る政策」「環境影響評価」という3つの音環境政策を検討対象とする音環境政策のあり方の考察を通して,音環境の公正なあり方について検討を行った.その結果,これまでの日本の音環境政策では,「人の尊厳と福祉を保つに足る(音)環境」とはどのようなものであるのかについての具体的な議論が欠けていることを明らかにした.そのことが,現存する音環境の不公正さの根源の1つであると考えられる.さらに,これまでの音環境政策の中で少なからず行われてきた,ある地域の人に,彼ら/彼女らにとっては受け入れ可能ではない音環境を,「公共の利益」なる言葉のもとに押し付けてきたことは,不公正であることを指摘した.
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