Research Abstract |
本研究の目的は,統計的な不確実推論の基盤の一つであるグラフィカル・モデルについて,統計的手法を適用できない人文科学研究などの分野でも利用可能なようにするために,不確実性測度の基礎として主観信頼性を提案した上で,グラフィカル・モデルを用いた推論手法を研究することにある. 本年度は昨年度の成果を展開する形で,命題論理を基盤にしたグラフィカル・モデルの構築の研究を行った.従来研究で提案されたグラフィカル・モデルは,数理論理学でいうところモデル論を基盤にしたものばかりであった.しかし,モデル論と対をなす証明論の方が推論を自然に表現している.まず,昨年度に引き続き,Horn節からなる論理プログラミングを対象にして,証明論に基づくラフィカル・モデルの理論の構築を継続して行った.このモデルでは,証明をグラフで表現することでグラフィカル・モデルを定義し,証明の主観確率から帰結の主観確率を計算する,というものである.さらに,節集合(連言標準形)論理式の構造をグラフで表現することにより新たなグラフィカル・モデルを提案した.このモデルでは証明はグラフの変形であり,本研究の成果は,その変形が統計的推論として意味を持つための条件を精査したことにある. また,これまで貴重資料画像解読を主たる応用分野として研究を進めてきたが,自然言語で記述された機械可読なテキスト・データの意味関係の表現に対しても,本研究を適用する研究を開始した.近年の自然言語処理技術を利用すれば,文や節の間に係受け関係,因果関係などの論理的な関係を不確実ながら抽出することができる,そこで,このような関係も不確実関係として扱い,複数の文の連鎖が表現する論理的関係を本研究で構築するグラフィカル・モデルによって表現する研究を開始した.自然言語処理研究における論理的な関係の抽出には,テキスト・データを統計的に処理することが一般的である.これに対して,本研究は統計的手法が適用できなことを前提としているため,論理的な関係の抽出には形式概念解析とよばれる代数的手法を用いることとした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主観信頼性に基づくグラフィカル・モデルの基礎理論の構築は順調に進んでいるが,主観信頼性そのものの研究が遅れている.基盤理論の応用については,これまで貴重資料画像解読だけを視野に入れていたが,自然言語で記述されたテキストという新たな対象を扱うことを開始しした,
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Strategy for Future Research Activity |
主観信頼性に基づくグラフィカル・モデルの研究について,論理プログラミングを基盤にして,そこに主観確率を導入することにより,新たな論理体系としてまとめる.また,主観信頼性を公理的に解析する研究を進める.またグラフィカル・モデルを貴重資料画像解読支援システムに組込むことによる評価を進めるとともに,自然言語で記述されたテキストにおける文間の論理的な関係の推論への応用も進める。
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