Research Abstract |
本研究では,細胞が自身の機能を大きく変化させる分化・脱分化の過程に注目し,細胞核の3次元形態や核に加わる力を見積もる手法の確立,ならびに,細胞核に直接的な力学刺激を加えることで細胞の機能を制御する手法の確立を目指し,2年間の研究を進めてきた. 本年度は,細胞内の核に直接的に力学刺激を加えるための手法の確立を目指した.フォトリソグラフィによる微細加工技術を適用し,直径3あるいは4μm,深さ9μmの微細孔が並んだ鋳型を作製した.そして,平均直径約1.5μmの鉄粉をシリコーンエラストマー(polydimethylsiloxane)溶液中に混入して鋳型に流し込んだ後,遠心力および磁力によって磁性粒子を鋳型底面に沈めさた.引き続きシリコーンエラストマーを加熱硬化して,磁性体が入った弾性マイクロピラーを90%以上の歩留まりで作製する手法を確立した.また,鉄粉を埋め込んだマイクロピラーを基板の所望の領域に作製する手法も確立した.これらの鉄粉含有マイクロピラーの周囲に磁場を形成することにより,磁力線の方向に沿って,特定のピラー先端に数70nN(細胞の発生張力と同程度)の力を負荷して変形させることができた.さらに,これらのピラー基板に対して,全面に細胞接着タンパク質を塗布して細胞を播種すると,細胞にダメージを与えることなく複数のピラーの間に細胞核を挟むことができた.すなわち,この状態でピラーを駆動させれば,核に直接的な力や変形を加えることが可能となった. 以上のように,本研究で開発した磁気駆動式マイクロピラーは,細胞核に対して,直接的な力学刺激を加えることができる有効なツールと言える.今後は,これを用いて,細胞核に力や変形を加え,核内DNA構造や特定遺伝子の転写活性を調査する研究へと応用展開できることが期待される.
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