2011 Fiscal Year Annual Research Report
脂質メタボロミクスによるがん微小環境再構築メカニズムの解析
Project/Area Number |
22650230
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Research Institution | 公益財団法人がん研究会 |
Principal Investigator |
清宮 啓之 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター・分子生物治療研究部, 部長 (50280623)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
馬島 哲夫 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター・分子生物治療研究部, 研究員 (30311228)
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Keywords | 脂質 / 細胞増殖 / がん / メタボローム / 活性酸素 / バイオマーカー / 微小環境 |
Research Abstract |
がん細胞は、腫瘍内の血流不足による局所環境の悪化に応答し、より有利な微小環境を再構築する。また、がん細胞は、外来性脂質の多寡にかかわらず脂質の新規(de novo)合成を盛んに行うが、その意義は不明である。本研究では脂質メタボロミクスを動員し、がん細胞内で働きが盛んになった脂質代謝系が、がん細胞自身および腫瘍内微小環境の再構築プロセスにどのような影響を与えるのか、その分子基盤も含めて明らかにすることを目的とする。昨年度までに我々は、脂質代謝酵素であるATP-クエン酸リアーゼ(ATP-citrate lyase:ACLY)が様々ながん細胞の増殖を抑制すること、同抑制効果は細胞内活性酸素(ROS)レベルおよびAMP活性化蛋白質キナーゼ(AMPK)のリン酸化(活性化)レベルが低い細胞株で特に顕著であることを見出した。今年度、ACLYを枯渇もしくは過剰発現させたがん細胞についてのトランスクリプトーム解析および水溶性・脂溶性メタボローム解析を実施した。その結果、ACLYの枯渇はがん細胞内のカルニチン経路の働きを低下させて中性脂質の蓄積をもたらすこと、さらに脂肪酸の炭素鎖伸長に関わる遺伝子の発現を低下させ、短鎖脂肪酸であるパルミチン酸の細胞内含有比を増加させることがわかった。パルミチン酸の過度な増加はミトコンドリアを刺激してROSの産生を誘導させるため、これがACLY枯渇による細胞増殖抑制の原因となっているのかもしれない。ROSおよびAMPKのリン酸化レベルが亢進したがん細胞株では適応応答が起きているらしく、ACLYの枯渇による増殖抑制に耐性を示した。最後に、腫瘍内微小環境を構築しているヒト大腸がん組織の免疫染色を実施した。その結果、進行度の高いがんではAMPKのリン酸化および酸化ストレスがいずれも低く、ACLY枯渇が有効な治療戦術となる可能性が示唆された。
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