2011 Fiscal Year Annual Research Report
海洋有機物動態を解く鍵物質「グリコカリックス」の提案・機能検証
Project/Area Number |
22651005
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
田上 英一郎 名古屋大学, 地球水循環研究センター, 教授 (50133129)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西田 民人 名古屋大学, 環境学研究科, 助教 (60313988)
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Keywords | 糖鎖 / 海洋有機物 / 物質循環 / グリコカリックス / 有機地球化学 / 溶存有機物 / 懸濁態有機物 |
Research Abstract |
本研究では、海洋の有機物プールに2種類のグリコカリックスが存在することを想定している。1つは、生細胞が分泌するグリコカリックス(糖衣)であり、もう一つはバイオフィルムマトリックスを構成するグリコカリックスである。両者とも複合糖質の複合体であることは同じだが、前者は「生きた」有機物で複雑ではあるがリジッドな構造を持つ糖ポリマー、後者は「死んだ」有機物で分解産物も含む不定形ゲルとして存在していると考えている。グリコカリックスを構成する複合糖質は特徴的な化学的性質及び組成を有している。複合糖質の化学的性質を基礎に海洋有機物を分画・精製し、精製画分から個々の複合糖質を分離し、特有な成分を検出すればグリコカリックスの存在と機能に関する情報が得られる。 、本年度は、グリコカリックスの分画・精製法の条件検討を行った。グラスファイバーフィルターにて懸濁態有機物を除去した海水をポリサルホン膜を用いて限外濾過を行い、高分子溶存有機物を濃縮採取した。フィルターに捕捉された懸濁態有機物ならびに脱塩・乾燥した高分子溶存有機物について、SDS- 尿素溶液を用いて抽出を行い、「不定形ゲル(バイオフィルム) を形成するグリコカリックス」との「糖衣として存在するグリコカリックス」の分画を行った。FACE法を適用して、複合糖質の糖鎖を検出した結果、両方の画分について糖鎖が検出された。しかしながら、泳動像上に明確なバンドを形成していなかったため、TFMS法を用いて、N-結合型およびO-結合型糖鎖を遊離させて、FACE法を適用したところ、泳動像上に明確なバンドが得られた。この結果は、懸濁態有機物ならびに高分子溶存有機物中にバイオフィルムならびに糖衣としてグリコカリックスが存在する可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成22年度に試料保管用冷凍庫の故障により、分析予定の冷凍試料が融解し、一部分析不能となった。平成23年5月に同等の分析試料を 採取する研究航海計画が採択され、この航海で試料の再採取を行った、その後にグリコカリックスの分画・精製法の条件検討を行ったため、研究に遅延が生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究において、海洋有機物中に、「グリコカリックス」が存在する可能性が高いことが示されたが、さらなる本研究目的に沿った分析条件の設定や研究目的に最も有効な技術の見極め、等を検討する必要である。 今後の推進方策として、表層懸濁有機物、天然プランクトン群集試料、高分子溶存有機物などの試料に対し、本研究で開発した方法を適用して、海洋で異なる存在形の「グリコカリックス」分子の化学的特徴を明らかにし、特有な成分を検出すればグリコカリックスの存在と機能に関する情報が得られると考えている。
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