Research Abstract |
パラジウム,白金,金は,水圏での存在度がきわめて小さく,かつ分析が困難であるため,その物質循環についてはほとんど分かっていない.本研究は,(1)エチレンジアミン型キレート樹脂(TYP-en)と高分解能ICP質量分析装置(HR-ICP-MS)を用いる超微量パラジウム,白金,金の新規分析法を開発し,(2)海水,陸水,雨水,海底熱水などにおける濃度分布を観測することを目的とする.本研究で得られるデータは海洋地球化学において貴重であるのみならず,レアメタルの資源戦略,人類活動の生態系への影響を考察する上でもきわめて有用である. (1)超微量Pd,Pt,Auの定量法の開発 エポキシ基を有するビニル樹脂とエチレンジアミンとの反応によりTYP-enを合成する条件を最適化した.Pd(II),Pt(II),Pt(IV),Au(I)およびAu(III)は,pH2以下の塩酸酸性溶液からTYP-enカラムに定量的に捕集され,アンモニア-KCN溶液により溶離されることを確認した.濃縮操作時の汚染を低減する洗浄法を決定するまでに多くの時間がかかった.また,HR-ICP-MSと脱溶媒試料導入装置Apexを併用するPd,Pt,Auの高感度な測定条件を最適化した.測定溶液に多量のKCNが存在すると,信号が不安定になることが分かった. 海水濃度を定量するためには,数100倍の濃縮が必要である.今後,数リットルの超純水および海水試料からの高濃縮条件を検討する.操作ブランク,回収率,精確さを評価する.操作ブランクは海水濃度の10%以下,回収率は95%以上,相対標準偏差は10%以下を目標として,分析法を洗練する. (2)太平洋における海水試料採取 平成23年7月から8月に実施された白鳳丸による西部北太平洋航海(KH-11-7)に参加し,貴金属分析用の各層海水試料を採取した.
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