Research Abstract |
本研究では,全ての森林に対して定量的な公益性評価に基づく経済価値を与え,この対価として公共資本が適正に投下されることにより地域社会が活性化されるしくみを実現するために,温暖化・気候変動下において,森林管理・木材利用による環境保全・防災・炭素固定の機能変化と地域経済への影響を定量化し,これらの得失を客観的に評価できる新しい指標(森林起点型地域づくりデザイン指標)を提案することを目的とした. 本年度は,昨年度,現地観測とモデル化から明らかにした森林管理,環境影響,木材資源・炭素収支の間の基本的相互関係に基づき,地域社会システムの中での森林機能評価の具体像を明確にした.すなわち,水源涵養,土砂流出抑制,炭素固定,木材生産などの森林機能は,森林内土壌水分状態(その変動係数=体積含水率の平均/体積含水率の分散)によって一元的に評価できることを明らかにするとともに,これを指標とした値が土壌微生物活性度や森林施業方策に依存することも示せた.ただし,この指標による森林評価では,森林の持つ地域特性を総合的にしか表現できないことがわかってきたため,研究当初に目指していた"森林起点型地域づくりデザイン指標"による様々な森林機能の一元的評価ではなく,森林の様々な機能を個別に評価しつつ,地域森林の個性を伸ばすしくみの方が有効かつ重要であるとの認識に達した.これについては,岐阜県での森林管理や木材生産・流通が中部地方全域での経済や炭素固定に及ぼす影響を評価するモデルの構築とこれに基づくシミュレーション評価結果からも明らかにすることが出来た.なお,こうした検討を通じて,地域森林の機能評価においては,森林域での生物多様性も含めた保険・文化機能の評価も必要となることがわかり,今後の検討課題となることが明らかとなった.
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