2010 Fiscal Year Annual Research Report
ケミカルシステム生物学手法による細胞遊走シグナルの普遍性と多様性解析
Project/Area Number |
22651084
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
井本 正哉 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (60213253)
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Keywords | ケミカルバイオロジー / 細胞遊走 |
Research Abstract |
本研究は、細胞遊走を細胞応答のモデルとし、ケミカルバイオロジーとシステム生物学を融合させたケミカルシステム生物学の研究手法を構築することで、細胞遊走を制御するシグナル伝達パスウェイの多様性と普遍性を解析することを目的とする。 平成22年度は、小分子化合物が様々な細胞の遊走に与える影響を評価した。具体的な評価法は、コンフルエントに播種した細胞に傷をつけ、細胞が傷のエリアに遊走する度合いを定量的に測定することで評価した。細胞株は、由来の異なるがん細胞株及び正常細胞株を合わせて10種類使用し、化合物は標的分子が既知の化合物40種類を濃度4点設定して試験を行い,それぞれの化合物が個々の細胞に対する遊走阻害効果をクラスター解析した。その結果まず、p38阻害剤やPI3K阻害剤、HSP90阻害剤などの同じ標的を持つ2種類の化合物らは、いずれも近い位置に分類されていたことから、本クラスター解析の結果が化合物の作用点の類似度を反映していることが確認できた。このクラスター解析の結果、細胞のクラスターは大きく2群(Cluster A,B)に分かれた。興味深いことに、同じEGF刺激に応答して遊走する4種のがん細胞株が2種類ずつ異なるクラスターに属する結果となった。化合物のクラスターは4群に分かれ、その特徴は以下のようになった:細胞遊走を阻害しない化合物群(Cluster I)・遊走阻害と同様の濃度で細胞死を誘導してしまう群(Cluster II)・全ての細胞遊走を阻害する群(Cluster III)・Cluster BよりもAに属する細胞の遊走を強く阻害する群(Cluster IV)。以上本年度で得られた結果は、EGFが引き起こす細胞遊走においてCluster IIIに属する阻害剤の標的分子が遊走シグナルの「普遍性」に、Cluster IVに属する阻害剤の標的分子が遊走シグナルの「多様性」に関わる分子群であることを示唆する結果であり、本研究を開始する際に立てた仮説を全面的に支持する結果であるため、本研究の目的を達成するにあたり重要な意義を持つものであった。
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Research Products
(2 results)