2011 Fiscal Year Annual Research Report
江戸文人画における女性ー江馬細香の漢詩と絵画を中心に
Project/Area Number |
22651093
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
宮川 康子 京都産業大学, 日本文化研究所, 教授 (60251154)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
入野 美香 京都産業大学, 文化学部, 教授 (10151698)
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Keywords | 漢詩 / 水墨画 / ジェンダー |
Research Abstract |
研究代表者宮川は、1.昨年度に引き続き『源氏物語』を題材とした江馬細香の漢詩について、他の男性漢詩人たちの作品との比較を試みた。いままでに菅茶山については数篇の作品を収集したが、尾藤二洲についてはまだ確認ができていない。これらの過程で、江馬細香の「源語詩」は極めて希少な例であることが判明した。漢文学の深い素養を持ちながらそれを隠して物語を書いた紫式部は、細香のアイデンティティ形成にとってどのような意味を持っていたのか、これから追求していきたい。2.江馬細香と頼山陽の師弟関係、および男性弟子との交友関係のあり方を考察するために、関連する詩の収集と解読を進めている。細香と山陽の関係は、清朝時代の大詩人哀枚とその女弟子金逸になぞらえて語られることが多く、細香もそのことを意識していた。しかし金逸をはじめとする清朝の女流詩人たちに、細香は必ずしも同一性を感じてはいない。また金逸の作品を実際に読んで細香と比較すると、その作風が全く異なることも判明した。清朝と化政期日本との社会的状況、文人階級における女性のあり方の違いなどもこれから考察していかなければならない課題である。 研究分担者入野は、細香の絵の分析を通じて、墨竹画は「写意」で描かれ象徴的表現である一方で、多くの表現上の制限があるということ、伝統的な様式の奥に踏み込み、作者の内的世界に近づくには、絵を分析する際に通常の方法に加えた視点が、必要であることを強く感じた。しかし一方、作法や技法上の制限故に、より描き手の内面が濃密に現れているという示唆を得た。そこで実際に細香の画の模写を試み、墨竹画の筆跡に注目することが、重要な手がかりになるという感触を得た。細香の作画の特徴は、緊張感の持続にある。これは同時代の女流画家梁川紅蘭の筆致との大きな違いであり、模写を通じた筆致の分析によって新たな分析への可能性を開いていきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
絵画の分析については、細香の水墨画の多くが個人所蔵のため、その実際の閲覧が困難であること。また画廊に出品されているものについては、撮影許可が下りにくいなどの理由で、作品の収集がなかなか進んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度は最終年度に当たるので、漢詩、水墨画の収集、調査は、必要最小限にとどめ、宮川は清朝女流詩人たちとの比較に重点を置いて、ドロシー・コー、スーザン・マンなどのジェンダー研究も参照しながら研究を進めて行く。また入野は、模写による筆致分析という新しい方法のもと、心理分析をさらに進めていく。また24年度は、大垣市立博物館所蔵品など、影像資料化が出来ているものを中心に、漢詩と水墨画の関係などを考察するため、研究会を定期的に開き、宮川、入野の他必要に応じて専門知識の提供や、意見交換のできるゲストを招いて討議を重ねたい。 またその結果をまとめる作業を進めていく。
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