Research Abstract |
1.三木清編『現代哲学辞典』(日本評論社,初版1936年/新版41年/第2版47年)の初版と新版の間でいかなる<書き換え>が行われたかを,「世界観」「教育学」「心理学」「アメリカ哲学」「日本の哲学jおよび「日本精神」などの項目に即して具体的に検討した。そうした改訂作業の中枢にあった樺俊雄は後年,「何分にも戦争の危機が迫っていたので当局の検閲はきわめて厳しくなっていた。そのために一部の執筆者の名前を変名に取り変えたり,字句の訂正を行ったりしたので,編集はきわめて難航した」と述懐している。例えば「アメリカ哲学」の場合,記述内容に本質的な差異は認められず,執筆者の交代(早瀬利雄から清水幾太郎)は執筆者名の変更(変名措置)によるものと推測される。他方で「教育学」「心理学」の場合,新版での記述内容は「学術性」が飛躍的に高まっている。それに対して特に問題となるのは「世界観」や「日本精神」の場合で,改訂からはイデオロギー性の盛り込み方をめぐる配慮が窺われる。 2-『人生論ノート』所収の幸福論についても,初出と単行本との間で重要な<書き加え>を確認した。 3.『現代哲学辞典』が日本の哲学辞典編纂吏上に占める独自の位置(および三木哲学の先駆性)を見定める一つの目安として,戦後社会で一気に重要性を増した「環境」概念に着目して,同書に前後する各種の哲学辞典(『改訂増補哲学字彙』(1884年),朝永編『哲学辞典』(1905/24年),『大日本百科辞書<哲学大辞書>』(09年),宮本他編『岩波哲学辞典』(22/24年[増訂])および伊藤編『哲学小辞典』(30/38年[増訂]),渡部著『最新哲学辞典』(23年),高木著『学説人名用語大辞典<哲学之部/倫理之部>』(25/26年),『大思想エンサイクロペヂア26<哲学辞典>』(28年),哲学研究会編『現代哲学辞典』(30年),桑木監修.『哲学辞典』(34年))について,関連記述を網羅的に検討した。その結果,(1)『岩波哲学辞典』を境として,それまでの「環象」「囲繞界」「外囲」に対して「環境」が決定的な勝利を収め,(2)『現代哲学辞典』では,大項目として立項されてはいないが,新旧両版の間で「環境」に関連する記述が全面的に差し替えられている(模索状況の痕跡),という2点が確認できた。
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