2010 Fiscal Year Annual Research Report
戦時検閲下で、国民の心性はどう表象されたか-昭和期女性文学の対抗戦略-
Project/Area Number |
22652024
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
根岸 泰子 岐阜大学, 教育学部, 教授 (20180698)
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Keywords | 国文学 / 女性作家 / 昭和文学 / 出版検閲 / アジア・太平洋戦争 |
Research Abstract |
本研究初年度の平成22年度においては、年度当初の「研究目的」「研究実施計画」(交付申請書)に基づき、昭和戦中期の国民心性の文学への反映というテーマに即して、(1)基礎調査および解析、(2)時代状況の調査および解析、(3)成果発表の各項目ごとに一定の成果を得た。 「(1)調査および解析」では、大衆作家の堤千代関連の作業にもっとも力点を置き、堤のテクストのリスト作成を進めるとともに、鶴見俊輔の大衆小説解析理論を援用して人気大衆作家としての堤の特性をテクストのイデオロギー解析によって解明する作業を行った。また新たに新潮社の大衆娯楽メディア『日の出』の編集方針に着目し、同時代の文壇(純文学)と大衆小説の関わりから国民大衆の心性と文学ジャンルごとの関係性という新たな課題を見出した。なお堤関連の聞き取り調査および同人誌『文芸首都』調査については、より慎重を期し翌年度以降に順延することとした。 「(2)時代状況の調査および解析」については主として出版検閲関係に絞って、『出版警察報』をはじめとする当時の資料を照会して昭和戦中期における文学作品に対する検閲の実情を調査するとともに、千代田図書館の内務省委託本および出版検閲コレクション等貴重資料の閲覧および講演聴講、出版検閲に関する基礎的な研究文献の収集・閲覧を行った。これに付随して、(1)での雑誌『日の出』と編集部員(のち編集長)の和田芳恵の編集意図について、先行研究で指摘されてきた国策迎合だけには収斂できない、情報局に対する和田の抵抗意識の問題を、出版検閲の状況と重ね合わせてより実証的に検証するという新たな課題を得ている(下記論文参照)。 以上の成果((3))については、論文「アジア・太平洋戦争下の大衆小説一堤千代「日本の女の魂」(昭17・6)をめぐって-」にその一端を公開、翌年度以降も調査・考察を継続する予定である。
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