2011 Fiscal Year Annual Research Report
戦時検閲下で、国民の心性はどう表象されたか-昭和期女性文学の対抗戦略-
Project/Area Number |
22652024
|
Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
根岸 泰子 岐阜大学, 教育学部, 教授 (20180698)
|
Keywords | 国文学 / 女性作家 / 昭和文学 / 出版検閲 / アジア・太平洋戦争 / 通俗小説 |
Research Abstract |
本研究第2年目の平成23年度は、年度当初の「研究目的」「研究実施計画」(交付申請書)に基づき、(1)基礎調査および解析、(2)分析(検閲・言論統制関連)、(3)成果発表の各項目ごとに一定の成果を得た。 「(1)基礎調査および解析」では、前年度に引き続き堤千代の通俗小説テクストのリスト確定作業を進めるとともに、鶴見俊輔の大衆小説解析理論を援用したテクストのイデオロギー解析を行った。ここでは堤テクストにおける自由主義的・個人主義的なイデオロギーおよびそれと矛盾する国策迎合的なテクストの併存、階級的視点の存在等の特性を指摘、それぞれ学会発表および論文で成果を公表した。前年度からの派生課題であるメディア『日の出』の編集方針と検閲下での実態の比較調査については、編集者和田芳恵の戦後の総括と堤テクストの対照を行い、上述の研究論文中でテクストにおける抵抗性を析出する際に「通俗小説」のジャンル特性をいかに組み込んでいくかについての問題点をまとめた((3))。 「(2)分析(検閲・言論統制関連)」では、引き続き文学の隣接分野に着目し新たに『映画検閲時報』(復刻版全巻)および『演芸画報』(復刻版一部)等の資料の収集、照会に着手した。また(1)で述べた『日の出』編集部の情報局への抵抗意識の検証についても、戦中期の検閲事情に関する最新の諸論考の参照を行うとともに、ここでも「通俗小説」への検閲の特殊事情について実態に即したジャンル特性の精査という新たな課題を見出した。 以上の成果((3))については、論文「出版検閲下の通俗小説研究のスタンス-堤千代研究の前提として-」および学会発表「戦時下の女性人気大衆小説にみる国民の心性」で公開している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
予定した項目についてはおおむね順調に進展している(9)が、各論中の雑誌『日の出』の実態調査の重要度が想定していたよりも高まっており、また読者層調査等についても準備作業が必要になってきている。予定していた堤千代および読者層の実態に関する個別インタビュー調査については、関係各位の事情により調整段階にある。
|
Strategy for Future Research Activity |
テクスト解析と戦時検閲の実態調査のうち、双方にわたるところの「『日の出』」の周辺事情も含めた調査(通俗小説の実態把握を含む)、および映画・演劇における検閲の実態のより精密な調査の二点に重点を置く予定である。 前者での「通俗小説」のジャンル特性についても可能なかぎり堤テクスト研究(とくに軍人表象に重点を置く)に即して行い、またそれらを読み解く理論として、新たに物語テクスト研究の成果を参照する予定である。 同人誌『文芸首都』調査については、上記のような主要テーマに関わる調査を優先させるため、調査対象からは省く。また11に述べたようにインタビュー調査についても、調整が遅れる場合は文書資料による調査で代替することを想定している。
|