2011 Fiscal Year Annual Research Report
手話の文字化の研究:日本における手話文字教材の開発をめざして
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22652039
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
加藤 三保子 豊橋技術科学大学, 総合教育院, 教授 (30194856)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 忠博 岐阜大学, 工学部, 助教 (00199879)
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Keywords | 手話文字 / サットン・サイン・ライティング / 日本手話 / 聴覚障害者 |
Research Abstract |
手話文字の存在意義に関する理論的考察 手話は話し言葉のみが存在し、文字をもたない言語である。そのため、日本のろう者は日本手話を使って話をしながら、文字としては日本語の書記言語を用いる。つまり、ろう者は生まれながらにして日本手話と日本語という二言語を習得するバイリンガルにならざるを得ない。このような言語環境の下で、「手話文字」の存在はろう者の言語生活に大きな影響を与える。本年度、海外の言語教育に関する情報を収集した結果、複数言語を学ぶ必要がある人たちへの言語政策に関しては、欧州評議会の言語政策部局が定めた「欧州言語共通参照枠」(CEFR)に基づいてさまざまな理論的考察が行われていることばわかった。そこで、今年度はこのCEFRの考え方を基にして、聴覚障害児(者)が音声日本語と日本手話に加えて手話文字を学習することの本質的な意義を考察した。 手話文字システムの改良と、JSPadによる日本手話語彙の手話文字表記 アメリカで考案されたサットン手話文字システムに改良を加え、日本手話文字の表記をより確実なものにした改良版「JSPad」を使用して日本手話語彙の表記を試みた。また、福祉機器を扱う企業関係者も含めて「手話文字研究会」を立ち上げ、ソフトウェアの実用化について議論を開始した。 なお、本年6月には大阪市で開催された「社会科学に関するアジア国際会議」において、「日本手話の普及について:社会言語学的観点からの考察」と題して研究発表をおこない、同月にはマカオで開催された「英語、談話分析、異文化コミュニケーションに関する国際会議」において「手話文字に関する研究」というタイトルで発表をおこなった。 平成24年度は、愛知県内のろう学校で手話文字システムを使用する実験授業を行い(対象は中学部/高等部の生徒)、実施後にはアンケートによって、ろう生徒の手話文字に対する意識調査を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.言語政策に関して海外の情報を得ることにより、「欧州言語共通参照枠」を参考に、手話文字をろう者のことばの教育に使用するための理論的研究をおこなった。 2.2つの国際会議で日本の手話事情と、手話文字に関する発表をおこない、有意義な意見交換が行えた。 3.福祉機器を扱う企業関係者を交えて「手話文字研究会」を立ち上げ、手話文字ソフトを関係者に直接紹介して実用化について議論できた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度には、愛知県内のろう学校で手話文字を使った実験授業を行い、中学部(あるいは高等部)の生徒を対象に手話文字に関するアンケート調査を実施する予定である。その結果をもとにして、手話が文字をもつことの意義を再確認しながら、聴覚障害児の言語獲得に手話文字がどのように機能するか、実験結果をもとに理論的考察をさらに深める。また、改良を加えた手話文字ソフト(JSPad)を活用して、日本手話単語を文字表記し、将来的に手話文字テキストを編集するための基礎データとする。ただし、時間的制約を考え、次年度はろう学校での実験授業実施とその後の分析に重点を置くこととし、手話語彙の文字表記は50~100語程度に留める。
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