2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22652078
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
盛 恵子 名古屋大学, 大学院・文学研究科, 博士研究員 (30566998)
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Keywords | ニアセン教団 / セネガル / 平和 / セレール / 改宗 / エスニシティー / 世界市民 / ナイジェリア |
Research Abstract |
23年度には、ニアセン教団に関する欧文先行研究の総括といえる著作がアメリカで刊行され、また日本で入手不可能だった教団創設者の著作をセネガルで入手したため、研究が大きく進展した。 11月から2月まで、首都ダカールと教団本拠地カオラックとその周辺の農村地帯で現地調査を行った。ダカールではニアセン教団の独自の修行法を調査し、神の前での人間の平等と平和の理念がこの修行を通じて信徒に体感されること、またこの修行法が、ニアセン教団が母教団であるティジャーン教団の多数派から受ける攻撃の焦点であることがわかった。 カオラックとその周辺の農村では、ニアセン教団は成立当初、ウォロフの移民集団が支持する小集団であり、教団は物質的基盤を固めるために、カオラック周辺のセレールの農村に戦略的に布教を行い、異教徒の彼らを改宗させたことがわかった。セレールの信徒は専用の畑を作って集団労働を行い、収穫物を教団の長に寄進して彼から祝福の祈りを受ける。彼らにはまた、病気治療の能力に代表されるセレール伝来の神秘的な能力を、それを持たない民族であるウォロフの教団創設者が欲し、その力を借りるためにセレールに接近したとする伝承があった。ここに現れる教団の有能な協力者としての自己像は、彼らがイスラームに屈服して伝統を放棄したのではなく、彼らのエスニシティーはイスラームの内部で保たれていることを示す。また教団最大の祭りであるガンムに列席し、西アフリカ諸国からの大勢の巡礼の参加とこの教団の世界市民性を確認した。ナイジェリア人は、原理主義テロリズムによる社会不安から例年より参加が少なかったが、彼らによれば、ニアセン教団の長はガンムに先だって、平和を求める訴えをナイジェリアのTV番組で行った。これはイスラームを通じた世界平和の実現という教団の姿勢の表明である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ニアセン教団の指導部と信徒の両方において良い情報提供者たちを見いだすことができ、彼らとの信頼関係の確立によって順調に調査を進めてきたが、本年度はナイジェリア、マリ、ニジェールなど外国人信徒や、また一般信徒と直接に接する末端の指導者たちに新たに人脈を拡大することができ、情報の量が増大した。しかしカオラックとその周辺では、居住と交通手段の確保にやや困難があった。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度の調査によって、セレールのニアセン信徒はカオラック県の農民セレールだけではく、カオラック県とそれに隣接するファティック県の水辺に居住するニョミンカと呼ばれる漁民セレールを含むこと、しかもニョミンカは農民セレールより早くニアセン教団を支持し、信徒数も農民セレールに優越することがわかったので、24年度はファティック県フンジュンとその周辺のニョミンカに調査対象を拡大する。彼らは、現カオラック県とファティック県すなわち旧スィン・サールム王国のセレールとは異なって国家を持たない後進的な集団であり、王国の支配に苦しんだため、農民セレールに先んじて、ニアセン教団の成立以前からイスラームに改宗したことがわかっている。ニョミンカのイスラーム改宗とニアセン教団受容の経緯と動機を、微視的:系譜調査によって明らかにする。
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Research Products
(3 results)