2011 Fiscal Year Annual Research Report
予断のあるケースにおいて良質な裁判員裁判を行うための話し合い技法の研究
Project/Area Number |
22653008
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Research Institution | Yamaguchi Prefectural University |
Principal Investigator |
甲原 定房 山口県立大学, 共通教育機構, 教授 (20225387)
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Keywords | 刑事訴訟法 / 裁判員裁判 / 話し合い技法 / 隠れたプロフィール |
Research Abstract |
本研究は,集団による問題解決である裁判員裁判において,メンバー(裁判員)の予断,偏見を乗り越え,適切な判断,判決に至るには,どのような方策をとれば良いのかについて実験社会心理学的視点からの実証的検討を行い,提言を試みるものである。 具体的にはメンバーが持つ予断,偏見といった初期選好や偏った情報分布が正しい問題解決を妨げる「隠れたプロフィール」課題を小集団で解決する実験場面を設定し,社会心理学・教育心理学分野で採用されている「話し合い技法」を導入することで,判決(集団決定)に肯定的効果が発生するか否かについて実験的検討を行う。 平成22年度は,研究の第一段階として,話し合い技法の一つである「ラウンドロビン」法を導入し,「隠れたプロフィール」型の裁判課題を大学生を対象にして実施した。 「ラウンドロビン」法とは,話し合い集団のメンバーに話し合いへの平等な参加をもたらし,情報の共有を促進することを目的とした技法である。実際の技法としてはメンバーの発言する順序を指定し,この順序を守り一定時間,話し合いを進行するものである。実験計画は「ラウンドロビン」法を使用させた実験群と特に話し合い技法に関する教示のない「統制群」の間の比較を行うものである。 平成23年度では22年度に引き続き「ラウンドロビン技法」を導入した小集団実験を実施したところ,様々な指標において,統制群と実験群の間に統計的に有意な差異はないという結果を得ている。 したがって,平成24年度においては,実験条件の修正を行い,再度,実験を実施する予定である,また,実験条件の如何に関わらず,問題解決に成功するケース・失敗するケースそれぞれについて,話し合いの結果,個人の私的意見にどのような効果が発生するのか,典型的なパターンはあるのかなどについて検証し,報告書を作成する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成22年度および平成23年度において,小集団実験を2回実施しており,200名以上の実験参加者のデーターを蓄積している。ただし,当初の仮説とは異なる結果が見られているため,平成24年度においても,実験条件を修正し,さらにデータ収集を行うことが必要であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予測とは異なる実験結果が得られており,想定していない要因が実験結果に影響している可能性がある。例えば,現実に裁判員制度が開始され,実験参加者が,様々な報道に接し始めたこと。本研究で使用されている課題の複雑さ,難易度といった問題が考えられる。また,実験で使用している「話し合い技法」への習熟の問題も考えられる。したがって,平成24年度においては,小集団実験に先立ち,実験参加者に本研究で使用する「話し合い技法」に習熟させる機会を設けるなどの処置が必要であると考える。あるいは,今後の研究において,まったく別種の「話し合い技法」の導入を検討することも有用であろう。何れにしても,突然,集合したメンバーが良好な話し合いを開始するとは考えられず,何らかの話し合いの構造を提供する必要があるだろう。
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