2011 Fiscal Year Annual Research Report
政治哲学と憲法学の対話を通じた「新しい権利」論の可能性に関する萌芽的研究
Project/Area Number |
22653016
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
飯田 文雄 神戸大学, 法学研究科, 教授 (70184356)
|
Keywords | 権利論 / ロールズ / キムリッカ / ナスバウム / 共生社会 / ヤング |
Research Abstract |
本研究の目的は、近年共生社会論の台頭と共に提起されつつある「新しい権利」論に関して、政治哲学と憲法学の知見を統合し、新しい分析装置を開発することにある。そのため、本年度は、フェミニズムなどの社会的争点化に伴って提起された権利である、女性や老人・障害者の諸権利を採り上げて、そこにおける憲法・政治哲学の議論を比較検討する、以下の研究を行った。(1)本研究ではまず、憲法学的・政治哲学的な権利論の双方における、女性や老人・障害者等の諸権利を巡る近年の議論の全体的な構造を把握するため、マッキノン・ミノウ・ヤングらの先行研究を幅広く収集・分析した。その結果、(1)憲法学的研究と政治哲学的研究の双方において、こうした多様な政治的弱者の諸権利を、女性の権利とのアナロジーや偏差という観点から理論化する傾向が強い、(2)憲法学においては、各政治的弱者相互の利益対立の問題が自覚されつつあるのに対し、政治哲学においては、相互の連帯可能性を強調する傾向が強い、等の重要な知見が得られた。(2)更に本研究では、憲法学的な研究において、これら多様な政治的弱者の共通性に着目し、ケアの現場での臨機応変な対応を可能にする権利理論として近年有力化しつつある、いわゆる関係論的権利理論の意義や限界について、ミノウらの議論を手がかりに検討した。その結果、(1)憲法学の内部では、関係論的権利論の受容が進む一方で、関係論的権利論が弱者の権利をむしろ曖昧化し、弱体化させる危険も指摘されつつある、(2)関係論的権利論に対応する議論は、政治哲学内部では、ケアの倫理の名の下に展開されつつあるが、こうした議論の代表的な例として、フランクフルトやダーウォルらの議論に着目する必要がある、等の重要な知見が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本語での研究論文の公刊や研究報告が当初の予定通り相当数行われており、更に外国語での研究報告も当初の予定通り順調に進んでいるため。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度である次年度は、当初の計画に従い、子供や胎児・動物の権利に関する研究を中心に研究を進める予定である。そのために、国内外での調査を続行すると同時に、内外学会での研究報告や国内外学術雑誌への投稿、更には、研究の最終的な目標である日本語の論文集刊行に向けた原稿作成作業を順次進める予定である。
|
Research Products
(4 results)