2011 Fiscal Year Annual Research Report
軟X線分光法を大気圧環境下で利用するための、新しい検出システムの開発
Project/Area Number |
22655023
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Research Institution | 財団法人高輝度光科学研究センター |
Principal Investigator |
為則 雄祐 財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 副主幹研究員 (10360819)
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Keywords | 軟X線 / 大気圧環境 / XAFS分光法 / 蛍光収量法 / 転換電子収量法 |
Research Abstract |
軽元素の内殻励起エネルギーに対応する軟X線は、物質に対する透過力が弱く大気中をも透過できないことから、その利用は真空下に限定されてきた。結果、測定対象は大幅に制限され、軟X線の利用は一部の基礎科学的な研究に留まってきた。しがしながら、透過率の低さは物質との強い相互作用の裏返しでもあり、軟X線は軽元素を含む物質の化学状態・電子状態観測手段として大きな可能性を秘めている。本課題では、軟X線吸収分光法を大気圧環境下にある実材料の分析手法として展開することを目指して、大気圧環境下での軟X線吸収測定法の開発を行った。 研究はSPring-8/BL27SUにおいて実施した。試料位置の直前に差動排気装置を配備し、大気圧ヘリウム充填された測定槽とビームラインを直接接続した。本年度は、前年度完成させた転換電子収量法を実際の測定に応用し、遷移金属錯体の水和・脱水に起因する電子状態をXANES法によって分析した。 実験では、シリカゲルに含まれる塩化コバルトを対象とし、無水物(CaCl2)ならびに水和錯体(CaCl_2・6H20)のコバルトの電子状態を、コバルトのL_<23>殻吸収端におけるXANES分析により評価を行った。無水状態では、塩化コバルトは2価の八面体構造をとることが知られており、本測定でも過去の文献と整合した結果が得られた。しかしながら、水和状態にある試料の測定では、XANESスペクトルに大きな変化が見られた。得られた実験結果は、CTM4XASコードを用いた電子状態計算と対比することで解析を行ったところ、水和した試料ではコバルトに4つの水分子が配位することによりD_<4h>対称性を持つ分子構造へと変化していることが確認された。本実験により、遷移金属錯体が脱水・給水する過程を軟X線分光法によって直接とらえることに成功した。本研究により、軟X線吸収分光法を大気圧環境下でも利用可能であることが実証され、今後、触媒化学・生体試料などをその場観察するための道筋をつけることができた。
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