2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22656035
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
割澤 伸一 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 准教授 (20262321)
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Keywords | ナノメカニクス / 量子的挙動 / 振動子 / グラフェン / FIB-CVD / Q値 / 歪印加 / SQUID |
Research Abstract |
平成23年度では,量子的挙動の検出に向けたデバイスの作製と計測を実施した.具体的には,ナノメカニカル振動子の材料としてグラフェンを主として取り上げた.先行研究において,グラフェン膜を利用して振動子を作製した場合,振動特性の一つであり共振点でのピークの鋭さを表すQ値が一般に小さいことが指摘されていた.そこで,Q値向上の手段として引っ張り歪を印加する方法を採用した.具体的には,加熱収縮の特性をもつレジストSU-8のトレンチ構造にグラフェン膜を配置し,FIB-CVDによるDLCによってグラフェン膜両端を強固に固定した.その後,FIBエッチングによりグラフェン膜を所望の振動子形状に整形したあと,加熱によるSU-8の収縮現象を利用して引張歪を印加した.提案手法によって,グラフェン膜振動子の共振周波数を向上させるとともに,Q値を向上させることに成功した.SU-8の収縮が加熱温度400度以上で発生し,グラフェン膜振動子のQ値変化が同様に400度,500度において劇的に変化することから,提案した歪印加手法が有効であることを示すことができた.この歪印加手法は加熱プロセスで実現できることから特別なデバイスを必要としない点に大きな特徴がある.得られたQ値に関しては,特に,10ミクロン超の振動子で室温下7000超のQ値を実現したことが特筆すべき結果である.バルク材料で作製された振動子の引張歪印加によるQ値向上の要因として,熱弾性ダンピングの低減効果が主要であるとの方向がなされているが,数層のグラフェン膜振動子においてこの効果をどのように説明するかは今後の検討とした.これを議論する関連結果として,印加された引張歪はSU-8の収縮量から3.5%以上と推定されるものの,共振周波数の測定結果と理論式との関係から算出できる引張歪とは良好に一致していない.これらの解釈についても最終年度の検討課題とした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初設定した引張歪量を得るために作製手法や振動計測手法の再検討を行う必要が生じ,一定の結論を得るまでに当初予定より時間を要したため.
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Strategy for Future Research Activity |
引張歪を印加することによってQ値が向上することは,従来熱弾性ダンピングの低減効果で説明されてきた.今回の実験によっても引張歪がグラフェン膜振動子のQ値を劇的に向上させることを確認した.しかしながら,数層のグラフェン膜で熱弾性ダンピングの低減効果が有効であるのか未だ不明である.そこで,例えば,フォノンのような振動の量子化概念を導入するのが妥当なのか,この点に焦点を絞って最終年度の研究を推進する.
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Research Products
(7 results)