2011 Fiscal Year Annual Research Report
ピロリ除菌による胃癌予防の費用対効果と新たな胃癌検診の制度設計に関する医療経済
Project/Area Number |
22659098
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
濃沼 信夫 東北大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (60134095)
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Keywords | 胃がん / 胃がん検診 / 医療経済 / 費用便益分析 / ヘリコバクタ・ピロリ菌 |
Research Abstract |
胃癌はH.pylori菌感染で引き起こされることから、簡便なH.pylori菌検査で感染者を早期に発見し除菌治療を実施することは、胃癌予防の有効な手段となる可能性がある。ただし、これを対策型検診とする場合は死亡率の減少効果に加え、検診プログラムの費用対効果、除菌治療による保険財源への影響など社会・経済面を十分に検討する必要がある。 本研究は、H.pylori除菌による胃癌予防に向けたシナリオについて損益のシミュレーションを試み、新たな胃癌対策の効果を経済面から検証するものである。 人口動態調査、患者調査、賃金構造基本統計調査、診療報酬点数表などを用いて、H.pylori検診の費用便益分析を行った。費用は、集団検診と除菌にかかる費用である。便益は、H.pylori感染で生じた胃がんの治療費、入院や通院の逸失利益、早期死亡による逸失利益の合計である。 日本人のH.pylori感染者は推計6,000万人、このうち2%が胃がんを発症するとして、凡pyloriが原因の胃がん患者総数は120万人である。胃がんは40歳から69歳で発症するとして、H.pylori感染で生じる胃がんの年間罹患数は4万人(胃がん罹患数の34%)と推計される。検診の対象を16歳から39歳の若年者とし、検診の受診率を30%、除菌の受療率を60%とした場合、費用は740億円である。一方、胃がんの治療費は82億円、逸失利益は617億円で、便益は700億円である。従って、H.pylori検診の費用便益比は約1と考えられる。検診受診率と除菌受療率が低い場合は、年間の検診と除菌の費用は少なくて済むが、長期にわたる検診と除菌のプログラムが必要となる。これが高い場合は年間の検診と除菌の費用は膨大となるが、感染対策は短期で終了すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H.pylori除菌による胃癌予防に向けたシナリオは、H.pylori検査を、(1)若年者(16歳以上40歳未満)で実施する、(2)若年者と中高年者(40歳以上80歳未満)で実施する、(3)中高年者で実施する、(4)現行の胃癌検診を中高年者で実施する、の4つを検討する計画であるが、このうち、(1)のシナリオについて費用便益分析が終了した。算出方法を確定したので、他の3つのシナリオについても同様の算定が可能と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1)本年度は、H.pylori検査を、(1)若年者(16歳以上40歳未満)、(2)若年者と中高年者(40歳以上80歳未満)、(3)中高年者、(4)現行の胃癌検診を中高年者で実施する、の4つのシナリオのうち、(1)のシナリオについて費用便益分析を行った。次年度は、他の3つのシナリオについて同様の費用便益分析を行い、医療経済の観点からより優れた検診のシナリオを比較考量する。 2)各シナリオについて、検診の受診率、除菌の受療率を変化させた場合の、費用便益比の変動について感度分析を実施し、現実的かつ医療経済面で合理性があると考えられる検診受診率、除菌受療率の水準を検討する。 3)胃癌対策の行政施策に組み込む場合に、医療経済面で最も優れ、かつ現実的なH.pylori検診のシナリオ、および、至適な検診受診率、除菌受療率などを明示し、3年間の研究の総括を行う。
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