2010 Fiscal Year Annual Research Report
黒色漆塗膜の変色メカニズムの解明と強化法確立のための基礎的調査研究
Project/Area Number |
22680057
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Industrial Technology Research Institute |
Principal Investigator |
神谷 嘉美 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発第二部・表面技術グループ, 研究員 (90445841)
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Keywords | 漆 / 文化財 / 劣化 / 縄文 / 材質分析 / 漆工技術 / 紫外線 / 表面分析 |
Research Abstract |
本研究は受け継がれてきた漆文化財の保存を目的として「黒漆の変色」に着目するものである。「漆黒」という言葉があるように黒い漆の塗膜には独特の質感があり、多くの漆文化財に多用されている。しかし漆樹液の本来の色は乳白色~茶褐色に変化するものであり、黒い漆塗膜を作るには複数の手法から技術を選択することになる。黒漆は他の漆塗膜に比べて変色が激しいと報告されているが、これらの制作手法と関連づけた科学的な研究は多くない。そこで黒色文化財への理解を支援するためのデータベース構築を将来的に目指している本研究では、目視評価だけでは区別することが難しい黒色塗膜の質的な解明に着手した。平成22年度では、(1)鉄粉添加によって化学変化させた黒漆、(2)黒色顔料混入による黒漆(カーボンブラック、松煙)、(3)素黒目漆の4種類の単層の膜試料と、(1)と(3)の漆を塗り重ねた複層構造の試料板を作製した。2種類の複層構造の試料については促進耐光性試験を実施して、残存光沢率、色彩変化、顕微鏡観察、フーリエ変換赤外分光法、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析、断面観察、表面粗さ測定など複数の分析手法を組み合わせた検証を行った。一方、擬似的に作製した劣化のモデル塗膜片での結果が、実際に劣化した塗膜とどのような相関をもつか知るために、縄文時代後晩期の豊岡遺跡を中心とする考古資料に関する科学分析を実施した。その結果、黒色物で漆かアスファルトか目視やIRスペクトルでは区別しきれなかった試料について、Py-GC/MSを使うことで簡便に判別が可能になると分かった。さらに黒色塗膜の研究を深めるために、日本や中国で用いられる漆樹のToxicodendron verniciflumだけでなく、ブラックツリーと呼ばれるGluta usitataやRhus succedanea var. dumoutieriといった異なる漆樹との比較も必要と考え、ミャンマーとベトナムでの調査を実施した。また、漆器の収蔵品をもつルーブル美術館で漆に関する研究会を行った。
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