2011 Fiscal Year Annual Research Report
黒色漆塗膜の変色メカニズムの解明と強化法確立のための基礎的調査研究
Project/Area Number |
22680057
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Industrial Technology Research Institute |
Principal Investigator |
神谷 嘉美 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発第二部・表面技術グループ, 研究員 (90445841)
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Keywords | 漆 / 劣化 / 解析・評価 / 文化財 / 修理 / 漆工技術 / 紫外線 |
Research Abstract |
「漆黒」という言葉があるように黒い漆の塗膜は漆文化財に多用されてきたが、漆樹液の本来の色は乳白色~茶褐色で、黒い漆塗膜を作るには複数の手法から技術を選択しなくてはならない。黒漆塗膜は変色が激しいと報告されるものの、複数ある黒漆塗膜の制作技術と劣化を関連づけた科学的な研究は多くない。そこで本研究では黒色漆文化財への理解を深めることを目的として、紫外線照射に伴う変化について可能な限り異なる分析手法を複数用いて調査し、制作技術ごとに比較する。 平成23年度については、(1)黒色顔料を使った黒漆を用いた複層構造の手板の作製、(2)これまでの測定データの見直し・整理と精度向上を目指した測定条件の検討を中心に実施した。とくに複層構造の手板の作製では、黒色顔料(カーボンブラック、松煙)を混入させてつくった黒漆を塗り重ねた試料、黒色顔料(カーボンブラック、松煙)を混入させてつくった黒漆を塗り重ねてから素黒目漆を塗って仕上げとした試料、といった檜板を素地とした4種類の複層構造の試料を合計約70枚作製した。単層塗膜を用いたオンラインUV/PY-GC/MSの測定では、同じ塗膜に対して連続で紫外線を照射させながら、時間ごとに揮発成分を検出することで、紫外線劣化の段階的な分解メカニズムを推察できる可能性があることなどが分かってきた。 一方、明治大学創立130周年記念懸賞論文としてまとめた「アジアの漆文化と漆工技術の保存科学的意義」は、学際領域系において最優秀賞を受賞。本研究成果の一部が含まれているこの論文の受賞によって、室瀬和美氏(重要無形文化財保持者「蒔絵」)、Monika Kopplin館長(ミュンスター・ラッカー美術館)、Dr.Anne-Solenn Le Ho(ルーブル美術館)を招いた国際シンポジウムを企画・開催する機会を得、本研究の意義でもある「分野を超えた相互理解と広く活動する重要性」を訴えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
東日本大震災の影響で、2012年5月より開設する予定であった新本部の移設が半年遅れ、装置移設に伴って試料作製に使用する予定であった装置が半年使えなかった。漆試料は作製後少なくとも1カ月半以上放置してから紫外線照射試験を実施する点、時期をずらしながら紫外線照射試験を行う点から、試料片の一部の試験が終了していない状況であり、当初の交付申請書で計画していた分析の実施項目に若干の遅れが生じてしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き複層構造の塗膜の分析と、単層膜での揮発成分の測定など強制劣化試験後の分析項目を随時実施し、研究期間終了までに可能な限りのデータ収集につとめる。国内での修理技術に関する聞き取り調査を実施し、劣化塗膜の強化法に関する情報を整理する。
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Research Products
(5 results)