2011 Fiscal Year Annual Research Report
旧植民地域における言語盛衰に関する総合的研究-ミクロネシアを事例として
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22682003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松本 和子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 准教授 (80350239)
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Keywords | postcolonial Japanese / postcolonial English / discourse variation / pragmatic variation / デショ / ダロ / hiatus resolution / フィリピン人移民 |
Research Abstract |
本研究では、旧植民地の諸地域で形成される多言語社会における言語変化のメカニズムを総合的に解明することを主たる目的に、パラオの旧宗主国の言語である日本語および英語の盛衰に係る言語内的・外的要因や変遷過程、度合いを、統計的な手法も織り交ぜながら、ミクロな視点から精査している。4ヵ年計画の2年目の研究として、本年度は昨年度に引き続き、両言語のデータ収集を予定していたものの、震災による影響のため余儀なく微修正を強いられ、収集済みの膨大な会話データの電子化・活字化の処理を図った。さらに、調査対象となる言語変異の変異形ごとの使用頻度等を調査し、現在、定性および定量の両面からその分析を進めている。 パラオ日本語に関する分析では、語用論的変化に関する研究の途中成果を中間報告の形で本学紀要より「Contact linguistics of diaspora Japanese : Linguistic innovation and attrition in the Western Pacific」として公表しているが、その精度を高めたものを来る4月の国際学会(Pragmatic-Discourse Variation and Change Conference)において報告し、関係専門家からの助言や指摘を踏まえながら、また他の研究者の研究成果との比較も行いながら、本研究の深化と発展に向けた土台を整備しつつある。 パラオ英語に関しては、本年度は主に音韻的特徴に焦点を当て、他の旧植民地英語との比較研究も行ったところである。とりわけ言語内的要因としてはhiatus resolutionの特徴、言語外的要因としてはフィリピン人移民との接触による影響等に考察を加え、その途中成果を来る5月の国際学会(2nd LINEE Conference : Multilingualism in the Public Sphere)において報告するとともに、現在着手している音声的・統語的特徴の考察と併せ、『The Lesser known Varieties of English』(ケンブリッジ大学出版)に所収されることになっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
震災の影響により、当初の予定・計画、すなわちパラオでの新たな現地調査やその統計分析といった研究代表者が担うべき事項に変更を強いられたことは否めない。その反面、きわめて貴重であるものの、これまで未整理.未分析となっていた膨大な一次データの電子化や活字化、データ化を図ることができ、現在の研究の土台を補足・強化することができた意義は大きいと考える。その結果、パラオ日本語の語用論的な変化に関する研究成果をまとめ、また、パラオ英語の音韻的特徴を定性的に示唆するに至るなど、一定の成果・達成度が得られたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、定性的な分析のみならず、変異理論を用いた本格的な定量分析も進める上で、話者からの必要な一次データをより多く入手するため、パラオでの現地調査を再開する必要がある。申請当初、1~3年目に予定していたデータ収集時期を、1、3~4年目へ変更するため、本研究計画の最終年度となる4年目は、データ収集と分析を同時並行的に行わなければならず、総括にも多少のしわ寄せがもたらされることは避けられないが、申請当初の目的自体はおおむね達成できると思われ、また達成できるよう取り組む予定である。
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