2011 Fiscal Year Annual Research Report
グローバル時代の国籍とパスポートに関する文化人類学的研究
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22682009
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
陳 天璽 国立民族学博物館, 先端人類科学研究部, 准教授 (40370142)
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Keywords | 国籍 / 無国籍 / 複数国籍 / パスポート / 越境 / 国境 / アイデンティティ |
Research Abstract |
本年度は、(1)アメリカに在住する複数国籍の子どもたちについてフィールド調査を行った。主には日本人との国際結婚家族から生まれる子どもたちに焦点を当て、ロサンゼルスにある保育施設「こどもの家」において参与観察とインタビュー調査を行った。二方の親が日本人であり、子どもの日本国籍を留保していることから、複数国籍である子どもたちがほとんどであるる生活はアメリカを基盤にするが、日本国籍を有することで医療や子ども手当てなど、できる限り既得権益を確保しようと考えていることが明らかとなった。 (2)イスラエルとシリアの国境地帯であるゴラン高原を訪問し、現地に暮らす無国籍者の人びとやゴラン高原のNGO組織(Golan For Development、AI Masadoなど)を訪問し、インタビュー調査を行った。現地の人びとは占領国イスラエルの国籍を取得することを拒んでおり無国籍である。無国籍のまま、彼らがどのように生活し、また、シリア側にわたった場合、家族とどのように連絡を取っているのかなどについてフィールド調査を行った。 (3)これまで集めてきたパスポートや身分証明書を一部整理し、編著書『越境とアイデンティフィケーション:国籍・パスポート・IDカード』を新曜社より出版した。また、文庫本『無国籍』を新潮社から出版した。. (4)国連難民高等弁務官事務所との協力でシンポジウム『無国籍者の今、求められる日本の対応-国連無国籍削減条約50周年を迎えて』を開催した。また、タイのタマサート大学との協力で、日本とタイの無国籍問題の比較研究シンポジウムを開催した。 グローバル化する中で、国籍の意味が激しく揺れ動いていることがわかる。複数国籍や無国籍者から表出する疑問や問題点から、現代社会における国籍の意味についてさらに考察を深めてゆきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究調査の面では、入手が困難な無国籍者に関するインタビュー調査や国境地帯での調査、重国籍者のインタビューなどは順調に進んでいる。また、パスポートや身分証明書の写真なども収集している。そのデータベース化について、パスポートの個人情報の保護や処理、パスポートの整理は遅れ気味であるものの、全般的には順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、インタビュー調査も進めるが、それだけではなく、これまでの研究成果をまとめ、その発表・公開に努める。無国籍者、重国籍者に関する論文を執筆し、学会などにおいて発表を行う。「越境時代における、国籍、パスポート、人間の安全保障」をテーマにしたワークショップを企画する。 パスポートの個人情報の保護や処理、パスポートの整理方法が課題となっているので、そのノウハウを習得する。
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